ファンキー末吉とその仲間達のひとり言

----第69号----

平成 14/09/23 (月) 16:19

落し物

北京に旅立つ朝、キャッシュコーナーにてクレジットカードを拾った。
誰かがキャッシュカードでお金を引き出す時に、
カード入れからクレジットカードとキャッシュカードを出して、
クレジットカードをその場にちょこっと置いてキャッシュカードで引き出し、
きっとそのまま置いて行ったのであろう。

カードの名義は伊藤さん。
しかもそのカードには署名をしていない。
つまり誰でもそのカードを拾った人は、「Itoh」なり適当なサインを裏側に自分ですれば、
まるで疑われることなく完璧にその人になりすまして買い物が出来ると言うわけだ。

ワシも一度カード犯罪にあったことがある。
10年ぐらい前だろうか、まだ北京にあしげに通いだして間もない頃。
毎月毎月いやにカードの使用料が多いので会計士に確かめたら、
使った記憶のないものが数個出てきた。
しかもその全部は北京で使われている。
記録を調べてみると、そのほとんどはとあるホテルのもの。
以前ワシが泊まったことのあるホテルである。

思えばこのホテルの従業員は変だった。
朝モーニングコールを頼んでいたら、
電話でもなくボーイが部屋に入ってきた。
起きたので「もういいよ」と思ったが出て行かない。
挙句の果てに、ベットに腰掛けてワシの長髪(当時はストレートパーマを当てていた)を
「綺麗な髪だねえ」
と言って撫でるのである。
当時までそんなに中国語が喋れないワシは出て行ってもらうのに四苦八苦した記憶がある。

ホテルにチェックインする時には
デポジットとしてカードを預けて機械に一回ガシャンとかけるものだが、
このホテル、そう言えばカードを奥に持って行ってガシャンとしていた。
その時に何枚かカード利用書をガシャンガシャンとやっておき、
その利用書を毎月使っていろんあものを購入していたのである。

幸い私が日本にいる時に海外で使われたものに関しては、
パスポートの出国記録を提出すれば全て戻ってくる。
あと頼りとなるのがそのサインである。
ワシのカードのサインは敢えてひらがなを使っているのは、
世界中の人間に一番マネされにくい言語だからである。
漢字だと中国人はマネできるもんね。

結局カードの支払いは免除となり、引き落とされたお金は戻って来たが、
ずさんなワシのこと、数ヶ月前までさかのぼったものは、
保険の有効期限外と言うことで結局泣き寝入りである。
ワシはあのボーイに髪の毛撫でられただけではなく、
毎月毎月多額のチップまで払うてやったんかい!

さてそんな思い出はさておき、
目の前にはサイン未記入のカードが転がっている。
まさに「金の成る魔法のカード」。
いくらでも欲しいものが買えるのである。

しかしワシは今から成田エキスプレスに乗って北京に帰らねばならない。
いつものパキスタン航空(酒が出ないのよ)は月、金しか飛んでないので、
これを逃すと大変なことになる・・・

しかし考えてみれば、この魔法のカードさえあれば、
航空チケットなどANAでもJALでも何でも買えるではないか!
しかもファーストクラスでもOKである。
・・・しかし買い物がチケットだとアシがつくか・・・

よし、それならば今から金目のものをたくさん買って現金に換えればよい!
・・・しかしそれをやってるうちに飛行機に乗り遅れる・・・

・・・ワシって目の前の大金を想像出来ても
パキスタン航空のエコノミーの現実は消えてなくならないのね・・・

ぼーっとそのカードを見つめながら武蔵小山駅へと向かう。
駅前の交番を通る時に思い出した。
「そうだ、前回酔っ払ってカード入れを落とした時、
キャッシュカードやクレジットカード、免許書まで入っていたそのカードを、
近所の人はご丁寧に交番まで届けてくれたではないか」
忘れもしない7月6日の熊谷ボーグの前夜である。
数件武蔵小山をハシゴしたワシは、酔っ払ってそのカード入れごと落としてしまったのだ。
日本はほんといい国である。ちゃんと届けられるのよね。

北京でワシはどれだけのものを落としたか・・・
一度たりとも届けられたことがない。
ビデオカメラ2回、携帯電話2回、カバン数回、
そのうちひとつには先日のXYZ北京ライブを収録したDATが入っていた。
中身はそれ以外にワシの私服である。

あのセンスのワシの服と、名もないハードロックバンドのDATが欲しいか?中国人!

そうだ、もっと考えてみろ。
このままこのカードを北京に持って行って使えばいいのだ。
持ち主が届けて、そのまま海外にまで情報が来るまで、
そのまま北京で豪遊すればいいのだ。
カラオケでおねえちゃんはべらして飲み放題!
銀行に持って行けばサインひとつで現金までキャッシング出来るし、
ワシはもう大金持ちではないか!

カードの持ち主にしてもカード会社にしても、
どうせ保険会社がそれを支払うんだから誰にも損はない。
人に迷惑もかけない完全犯罪とはこのことではないか・・・

そんなことを考えながら、
そのまま交番にカードを持って行ってしまう小市民なワシである。
調書を取りながら、カード会社に連絡をし、
「裏面にサインもせず、カードを落とすとは何事だ!」
と持ち主に強く伝言する。
「こんなカード拾われて、これこれこうされたらもうおしまいですよ!」
道すがら自分がシミュレーションした大金持ち計画をとくとくと話す。

言いながら何か腹立つのよね。
やっぱ人間あぶく銭は欲しいのよね。

結局調書やら何やらで成田エキスプレスに乗り遅れ、
北京用のドラムヘッド等大きな荷物を引きずりながら走ってカウンターに飛び込む。
思い描いてた豪遊生活とこの現実の差は何じゃ!

やっとのことで飛行機に乗り、
北京に着いたら陳琳のリハーサルがワシ待ちでセッティングされている。
数日間リハの後、福岡アジアマンスに参加するためにまた来日。
御一行は当日入りなのに対してワシだけひとり早く入ってサウンドチェックなどするのである。
飛行機が取れず、関空にひとり降り立ち、福岡までの空席待ち。
「取れなかったら新幹線で入ろうかな・・・」
などと考えながら、ヒマなので大村はんに電話など入れる。
「ヒマやし、関空まで飲みに来ん?」
「今仕事でんがな。サラリーマンなんやで、ワシ」
同様に三井はんにも電話を入れるが同様に断られる。
「みんなお前みたいにヒマじゃないの!」
ワシ・・・結構忙しいんですけど・・・

まあとりあえずキャンセル待ち入れといてビールでも飲もう、
・・・と思ってると、ポシェットに入ってるべきカードいれがない!
また落とした!・・・

さてどこで落としたんだろう。
北京空港では中国民航のカウンターでマイレージのカードを出したので必ずあった。
そしてセキュリティーチェックをする前にそのカードをカード入れに入れた。
その後どうしたのだろう・・・
セキュリティーチェックのところに忘れたのか、
はたまた飛行機までは持って来たがそのシートでなくしたのか・・・

北京でなくしたならもう絶望的である。
万が一国際電話等で手配したとしても、
ワシは現在日本円はほぼ無一文である。
カバンの中には中国元と香港ドル、そして何故かタイバーツがあるが、
国際通貨として両替出来るのは香港ドルだけである。
このまま入国する中国人を捕まえて中国元を闇両替するかぐらいしか、
ワシは自力で福岡に入れんのよ・・・
もしくは今から大村はんとこに金借りに行くか・・・

神と言うのをあんまし信じてはいないが、
まあどこの誰でもそうだろうが困った時にだけ現れてくる。
「神さん、ワシ・・・何か悪いことしたか?・・・」
そう言えば去年、中央電視台の収録現場で500元拾って、
事務所の人間も「拾っておけ」と言うのでそれでぱーっと飲んでしまった・・・
ごめんなさい、ごめんなさい・・・もうしません・・・

でも俺はこの前広州のカラオケで4000元落としたではないか・・・
更に先日は記名なしの金の成るカードを馬鹿正直に交番に届けたぞ!
でも自分のカード入れもちゃんと届いてたし・・・

これってこれでおあいこってこと?・・・

とやかく悩んでいるうちに、飛行機会社から連絡があった。
「お探しのものらしきものが飛行機の中で見つかりました」

やったー!

これで運は帳消しか?もしくはまだ借りがある?
かくしてワシは無事に福岡に着けた。
カード会社からは謝礼の2000円が振り込まれていた・・・

ファンキー末吉


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