ファンキー末吉とその仲間達のひとり言

----第115号----

2006/05/13 (土) 1:47

中国の音楽界で(まあ日本でもそうなのでしょうが)、
新人がいきなり社会現象になるほどヒットすることはまれである。

日本の「アサヤン」(実は見たことないのでよくわからんのだが・・・)
のようなオーディション番組をテレビで放送したところそれが去年爆発的なヒットとなり、
それに出場している女の子達がレコードも出してないのに
(まあこちらではレコードは名刺みたいなもんですが・・・)
超アイドルとしていろんなメディアにひっぱりだこになったのはほんの1年足らず前の話。
正にこちらでの「社会現象」のひとつであった。

しかし柳の下には何匹もどじょうがいると言うのがここ、中国である。
予想をまるで裏切ることなく、それモドキの番組が現在もどんどん作られている。

いつも仕事をくれるLaoLuanから電話が来た。
「Funky、小工作(日本で言ういわゆる小商い)なんだけど頼んでもいいかなぁ・・・」

まあ日本での生活もそうじゃったが、
こちらでは今やテレビすら持ってないワシにテレビの仕事を説明するのは骨がおれるらしく、
「超級女声って知ってるか?」と簡単に説明されただけだったので、
ワシはてっきりあの超級女声のバックをするのか・・・と思ってそれを引き受けた。
・・・と言うより、実はやっている時でさえずっとそうだとばかり思っていた。

かくしてリハーサルスタジオに着くと、
15人の初々しい(そうでないのも数人いるが)アイドル予備軍の女の子達が、
初々しく緊張しながら(そうでないのも数人いるが)ワシ達の到着を待っていた。

日本ではミュージシャンの地位は非常に低く、
爆風でテレビに出た時なんかもテレビ局のスタッフに
「バンドさんはこちらへ」と言われ、メンバー一同苦笑したことがあったが、
こちらではたかがバックバンドであっても「老師(先生)」と呼ばれるので
それこそ大違いと言うか、逆にちとこそばゆい。

女の子達も、日本の若い新人歌手達のように
「アンタたち誰?」みたいな視線を投げかけることもなく、
かと言って教育が行き届いたアイドル歌手のように
「よろしくお願いしまーす」と無味乾燥な笑顔を投げかけてくるわけでもない。

ここでの立場はどちらかと言うと
テレビ局が用意したダンスや歌唱指導の先生に似た感覚なのであろうか、
ある種の緊張感と尊敬の念を込めた眼差しでワシ達と接する。

ま、ドラム叩いて32年、
彼女達が生まれる遥か前から音楽をやってるワシを「老師(先生)」と呼ぶのはまだしも、
LaoLuanが呼び集めた、(まあ予算が少ないからであろうが)
ワシ以外の若い駆け出しのミュージシャン達にとっては、
年端も変わらない女の子から「老師(先生)」と呼ばれるのはかなりこそばゆいらしく、
「いい娘たちばっかりなんだけど、あの老師っつうのだけは何とかならんかのう・・・」
とは言うものの、
やはりこちらはレコーディングしててもミキサーから通行人までが歌入れに意見を言う
「13億総プロデューサー」の国である。
照れてたのは最初だけ、彼らもバンバン歌唱指導するする・・・
かくしてその場の雰囲気は、オーディションのリハーサルと言うよりはいきなり
「学園祭の練習」みたいになってしまったのである。

さて実は、そのリハーサルスタジオは一般貸しもやっていて、
アンダーグラウンドのロックバンドや、社会人、学生バンド達にもよく使われている。
まあ地元のアンダーグラウンドのロックバンドなんかが来た時には
ガラス越しにワシや若いミュージシャン達を見つけて我が物顔で中に入って来るのであるが、
そこに運良く(運悪く?)やって来たのがどうも日本人の学生バンドか何かだったらしく、
ガラス越しにどうもどっかで見た顔のドラマーを見つけるのであるが、
奥ゆかしい日本人には中国人のようにづかづかと中まで入ってゆく勇気はない。
バンド全員でガラス越しに貼り付いて中を覗いてる彼らに中国人が声をかけた。
「何やってんの?」
そこで彼らが初めてこう尋ねる。
「あのドラム叩いてるのファンキーさんですよね?」

「そうだよ」と答えられ、納得した彼らは、まあ別にワシに声をかけることもなく
そのまま自分たちのリハーサルを終え、帰って行き、
ワシは後に中国人スタッフが教えてくれて初めてそのことを知った。

「ファンキー、お前やっぱ有名人なんだなぁ・・・
あの日本人の若者達、ずーっとお前見て、ずーっとお前のこと話してたぞ・・・」
と言われ、何か複雑な心境・・・

あの人たち・・・ワシが若い女の子集めて何やってたと思ったんでしょ・・・

さてその女の子達であるが、
一応アイドル予備軍なんだから(そうでないのも数人いるが)ルックス的には一応可愛いが、
歌唱力となるとこれがなかなか難しい。
生まれてこのかた生バンドでなんか歌ったことないんだから、
いつも歌い慣れているカラオケの伴奏との違いに戸惑うばかり。
ある娘は老師たちに教えを請い、
またある娘は老師たちに胸を張ってこう言った。

「バックコーラスないの?」

一応に固まるスタッフ一同。
顔見合わせるワシ達・・・

「コンテストだからね、プロのコーラスがいるとみんなそれに頼っちゃうでしょ」
(本当は予算がないからなのであろうが・・・)一生懸命なだめるスタッフ達・・・
「お前、コーラスやれよ!」
新しく生まれためんどくさい仕事をお互いになすりつけ合うメンバー達・・・

しかし、ワシは個人的には実はこの発言をした娘が一番歌がうまいと思っていた。
ルックスも、その時は「お前、絶対年齢サバよんでるじゃろ」としか思わなかったが、
本番になるとばっちし化粧して結構美人だったし・・・
歌がうまくてルックスよければとりあえず性格は、ねぇ・・・

あと、印象に残った娘が、背がちょっと低くてぽっちゃりしていたために、
審査員からも総評の時に「それからあの・・・おデブちゃん・・・あんた歌うまいわねぇ・・・」
と言われていた女の子である。
彼女が選ぶ歌が、ちょっと古いタイプのバラードが多く、
うまいんだけどあんまし興味がなかったが、
本番のメドレーで彼女のルーツであるオペラを歌ってそのうまさに絶句。
歌がうまくて性格よければとりあえずルックスは、ねぇ・・・

しかしまあ後の娘達はと言うと・・・まあ・・・歌は・・・どうしようもない・・・

ひとり、ワシが昔プロデュースした李慧珍の曲を歌ったが、
「お前・・・頼むからその曲だけは歌うなよ・・・」
と言いたいほど情けない。
そいつだけは満場一致で「どうしようもない」のであったが、
本番ではそんなのが当選したりするんだから不思議なもんである。

歌えないと言えばひとり、頬を赤らめてマイクを両手で抱えるように持って・・・
これがまた本当に全然歌えないんじゃが、ワシのロリコン心を刺激して非常に可愛い。

本番では審査員から「あんた、可愛いのはわかるけどここは学芸会じゃないのよ」
と酷評されて見事落選。
しかしその時流した一筋の涙に司会者が同情し、
「じゃあせっかく練習したんだから1曲だけ歌っていいわよ」
とチャンスを与えてあげる。

涙ながらに歌う彼女・・・
ワシも何か他の曲よりも一生懸命ドラムを叩いたりするが、
こんな娘の選んで来る曲ってのがまたドラムなんてどうでもよいアイドル物だったりする。

でも・・・はっきり言って楽しい仕事じゃ・・・

さて、若き美しい(そうでないのも数人いるが)娘達の涙と笑顔に囲まれながら、
ワシの楽しき仕事はこれで終わった・・・と思ったらそうでもなかった。

「じゃ、また来週!」
あれ?これって決勝戦じゃなかったの?・・・
「これは15人の中から7人を選ぶ予選。来週はその中から5人を選ぶ」

・・・ワシの楽しみは続く・・・

・・・と思いしや、実はLaoLuan自身があまりのギャラの安さにこの仕事を降りてしまい、
結局ワシの楽しみは次の北京特別唱区の決勝で終わってしまった。

仕方がないのでそれをインターネットで放映しているサイトでその続きを見る。
ワシの仕事はもう既に過去のものとなってUPされてないが、
いやはやこれは・・・はっきし言って面白い!

ワシが一番歌がうまいと思った二人は最終予選で落とされてしまったようじゃが・・・
結局一番どうしようもないのが結局最後まで残ってたりするから不思議である。

うーむ・・・タダでもいいからずっとやりたかったぞ・・・この仕事・・・

ファンキー末吉


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