ファンキー末吉とその仲間達のひとり言

----第7号----

1999/11/04 14:20

気が付けばご無沙汰の配信である。

「最近まぐまぐが配信されてないところを見ると、
さぞかしお忙しいことと思われますが」
と言うMailを頂きながら、
そんなMailに返信をすることもなく雑務に追われる毎日。

それもこれも全てX.Y.Z.Recordsと言うインディーズレーベルのせいである。

「レコード会社ってこんなに雑務が多いのね」
と言うのが実感であるが、
これを人に振ってしまったのでは、
結局全てを理解する頭を持ってる人間がいなくなるので
システムとしてはのちのち崩壊していってしまうしかない。
誰もシステムの全てを理解してる人間がいないわけだから、
ここはひとつ誰かが一度全てを理解してから、
それを次からは誰かに振っていくようにしてゆくしかない。

と言うわけでこの俺が、
プレスの発注から出版の管理、
ひいてはディストリビュート先のキングレコードへの
納品書の書き方まで教わりに行くハメとなる。

発売日を1ヶ月前に控えて、
最初の注文書がFaxで届く。
「ん千枚」と言う、
メジャーのイニシャル枚数だと解釈すれば屁とも思われない枚数
(それでも爆風スランプが当時
「SONYの一番期待されない新人」
としてデビューした時のイニシャルより多いぞ。
いったい何やったんや、あれは)
ではあるが、
これが自社のレーベルとなると話が違う。
納品書に、枚数と単価と総計を書き込んでいくと、
なんとこれは1千万単位の商売なのである。
ひえー・・・
さすがCDの単価が世界一高い国・・・

しかしアナログな作業である。
今どきこのテの資料は手書きのカーボン7枚綴りと来ている。
ワープロに慣れた私としては、
もう簡単な漢字でさえ手書きでは書くことが出来ない。
仕方ないので傍らでパソコンを立ち上げて、
わからない単語はそれで候補を選んで、
それを目で見て書き写す。
情けない・・・

音楽出版会社に出向いてゆく。
懇意にしている会社に数曲ぶんの出版を預かってもらうのだが、
こちらとてこの「出版」と言う権利の大事さを何も理解していない。
「どの曲が欲しいですか?」
「何曲欲しいですか?」
これではまるで「はないちもんめ」である。
出先から帰って来ていきなりやりとりを見かけたその会社の人が、
「すんげー、ファンキーさん相手に
直接出版のパーセンテージの交渉してんの?」
と驚く。
いえいえ、その日の私は、アジア・ドラムキングの末吉ではなく、
弱小レコード会社のオヤジ兼小間使いなのですよ。

音楽専門誌に有料広告を打つ。
予算は「ん百万」
億単位の宣伝費をかけなければヒットは生まれない
と言われているメジャーレコード会社の常識から言うとスズメの涙である。
まあ「ロック」と言う
ある種閉ざされた世界への露出なのでこの値段で実現するのであるが・・・

各雑誌媒体の広告掲載料の資料を取り寄せて、
「んー、これは高すぎるなあー」
とか
「いやいや、この雑誌は昔から世話になってる」
とか
「この雑誌社、電話の応対が冷たかった」
とか、
スタッフ、メンバー雁首そろえて頭をひねるのだが、
めんどくさがりの俺はもうその広告掲載料の資料の束から、
「はい、じゃあ○○社さん、雑誌○○と○○、
○○円でお買い上げぇー」
などとこちらで勝手に落札してゆく。
「○○さん、あまりに高すぎるのでボツぅー」
などとごみ箱に捨てられてゆく資料もある。
残った資料の総計を出して、
「はい、総計○○円。これにて一件落着ぅー」
それを見ていた二井原実、
「20年近く業界におるけど、こんな光景初めて見た」
いやいや、俺かて初めてやった。

支払いとかも全て俺のところに集まる。
「入金は一日でも早く、支払いは一日でも遅く」
の原則の元、
「一番待ってもらっていつ払えばいいか聞いといて」
ではスタッフも可愛そうである。

値切りとて中国的。
とある大きな支払いの交渉時、
「○○さん、ぶっちゃけておいくら払えばいいんですかねえ」
相場と言うものを知らないからこう聞くよりほか仕方がない。
「いや、もちろんファンキーさんとこは別ですけどね、
他のレコード会社さんだと250万は頂いてますが」
となりで話を聞いてた二井原実の表情が一瞬固まる。
「いくらにまかります?」
ものおじせずにそう聞くが、
「いや、そんな話を直接ファンキーさんとお話するのも・・・」
と、どうも先方もやりにくいようだ。
それもそうやと二井原がうなずく。
「はな誰と話をすれば一番安くしてもらえます?」
ではこれは交渉以前の問題である。

支払い期限の問題もある。
「一番遅くていつ支払えばいいですか?」
では答える方も答えようがない。
「いつなら払えますか?」
では禅問答である。
二井原実の顔に不安が浮かぶ。
「ディストリビュート先からの入金は3ヶ月後なんで、
払えて2月ですねえ」
胸を張ってそう言い切られても先方も困ってしまう。
「本当ならば今月中にいくらか頂かなければ困るんですけど」
値段によっては払えるなあ・・・
「じゃあ今月中にいくら払えば困りません?」
聞き方の論法がむちゃくちゃである。
「いやー、今月中に100万は入れないと会社としても・・・」
「じゃあ今月中に100万入れるとすると、
残りはいくらにまけてもらえますかねえ」
うーむと腕を組む先方。
二井原実の顔に緊張感が浮かぶ。
「値段はもうファンキーさんが決めて下さいよ」
緊張感が一瞬ゆるむ。
「そうですか、じゃあ残りは2月にあと20万!
合計で120万でどうですか?」
一瞬、先方の顔がひきつった。
笑顔で答える俺以外はもの凄い緊張感である。
二井原実が救いを求めるような目で俺と先方の顔を見くらべる。

しばしの沈黙の後、先方が緊張感を崩した。
「じゃあ全部で140万と言うことにしましょうか」
二井原実の顔に安堵感が生まれる。
「じゃあ間とって130万!」
さらなる緊張感。
二井原実の顔が泣き顔になる。

単位に「万」がついてはいるが、
感覚としては北京の露店で250元を130元にまけさせているのと同じなのだ。
またその場に現金がないのでよけいである。

結局は先方が折れてくれて130万で落札した。
そしてこの日のやりとりのことは、
その後メンバー間で語られることはない。

かくしてX.Y.Z.のCDがもうすぐ店頭に並ぶ。
視聴機を置いてくれるショップもあるらしい。
こんなこと爆風でもしてもろたことないぞ!

メジャーって一体何やったんや!


先日、北京からマブダチである黒豹の事務所の社長、
沈永革が日本にやって来た。
「ファンキーさん、レコード会社始めたんだって?」
昔から「将来は一緒に北京でレコード会社をやろう」と話している朋友である。
最近余儀なく学習したばかりの日本のシステムを説明した。
「だからぁ、最終的に会社にはこれだけの金が入るでしょ、
それをメンバー4人と、事務所と合わせて5で割るわけよ。
そうするとだいたい○○枚売れて○○円ぐらい入るじゃない。
まあ金が欲しければ現金でそれぞれ持って行ってもいいし、
まあ俺らの性格だったらきっとみんな次のアルバムにつぎ込むとか、
ライブにつぎ込んだり、もっとアホなことにつぎ込んだりしてね。
何万枚ぐらいでそれが実現するんやから、
インディーズっつうのは考えようによってはオイシイかも知れん。
なんで俺、15年もメジャーにおったんやろなあ。は、は、は・・・」
それを聞いてて沈がひとこと。
「ファンキーさん、今聞いてて思ったんですけど、
そのシステムってもろ中国じゃないですか」

言われて見て、はたと気が付いた。
日本では事務所がアーティストをコントロールするが、
中国ではアーティストがマネージメントをコントロールする。
アーティストがマネージメントを雇うと言っても過言ではない。
俺は無意識のうちに中国で覚えたこのシステムに合わせて
現在のシステムを構築してしまったのかも知れない。

考えてみればこの日本のシステム、
ミュージシャンがサラリーマンとして事務所から給料をもらうなど、
世界の中でも日本ぐらいではあるまいか。

日本人はなぜ何よりも「安定」を求めるんだろう。
日本人はなぜ美徳として金や権利を主張しないんだろう。
日本人はなぜ一匹狼よりも組織の一員になりたがるんだろう。

俺はやっぱりそのシステムでは生きて行けんなあ・・・


和僑:ファンキー末吉


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