ファンキー末吉とその仲間達のひとり言

----第55号----

2002/01/22 (火) 0:40



何故に中国のテレビでバンダナはあかんのや!

昨日はまたいきなりS社長に
「ファンキーさん、テレビの収録あるんだけどドラム叩いてよ」
と言われた。
ここの看板歌手「陳琳」のバックバンドである。

テレビと言うと通常「あてぶり」である。
いわゆるカラオケに合わせて演奏している振りだけで、
歌だけは生で歌っていると言うものだが、
アメリカなんかでは歌まで口パクであったりすると言う。
中国では日本と同じくあてぶりが通常らしく、
どうせ演奏しないのだからと、その辺の連中を適当に集めてた。
ベースの奴なんかはS社長んとこの社員である。

でもS社長は「こいつの顔を売りたい」と言う人間をそんな中に呼んで来たり、
時にはアジアの小室と言うべきプロデューサー張亜東なども駆り出されてギターを弾いたりする。
これをワシは「北京の友達地獄」と言う。
今回の場合はワシとあの新人くんである。
あの朝から晩まで音楽やってるだけが生きがいのオタクのシンガーソングライター、
一応マルチミュージシャンなのでキーボードからギターから持ち替えてあてぶりする。
今日も「その服は何だ!」と怒られていた、ぬぼーっとした憎めないやつ。
一応長髪である。

ワシはと言えば最近S社長の策略に乗って中央電視台の生放送やら何やらに駆り出され、
奇声を上げながらアホ面してコンガを叩きまくる変なジジイとして認知され、
そのおかげで今ではラテンのアレンジを頼まれたりするキャラである。
「ファンキーさん、この前テレビに出てましたねえ」
とよく言われるが、実は全然嬉しくない。
そんな顔を売るなっつう話である。

「今日どんな曲やんの?」
あてぶりだが一応ちゃんとチェックをする。日本人は仕事が細かいのだ。
大体は発売された最新アルバムの中からやると言うので音だけもらって、
「当日やる前に音は聞けるよね」
だけでOKである。
あてぶりじゃなくても一度聞けば叩けるぐらいだから心配はいらない。

スタジオからドラムセットを運び出す。
「ファンキーさん、どれとどれが必要か指示しといてね」
あてぶりなので最小セットでよい。
どうせ手元のアップなど来るわけないし・・・
コンガと違ってドラムは一番後ろに位置するのでそんなもんである。

収録スタジオに着いたらドラムを下ろし、
セッティングしようと思ったら、すぐ「メシ食おう」とS社長。
まあ社長がそう言うならと隣のレストランに飛び込む。
「ビールいく?」
今から収録なのにビールを勧めるS社長。

しばらくしてスタッフが飛んでくる。
「シンバルが1枚しかないけどいいのか?」
慌ててたのでハイハットもシンバルも忘れて来ている。
「ま、あてぶりなんでいいでしょ」
とりあえずビールを飲む。
「カメリハとかはあるよね?」
S社長に一応チェックを入れる。ワシは今日どんな曲をやるのかも知らんのだ。
日本だとサウンド・チェックにカメラリハーサルにゲネプロと呼ばれる通しリハ、
結局最低でも3度は同じ曲をやるので、
これだけやればきっちり覚えてしまう。
まあ3回も曲を聞ければ完璧なのでビールでも飲みながら待つことにする。

しかし待てども待てども呼びに来ない。
これでは収録前に酔いつぶれてしまう。
まだ曲も聞いてないし、ドラムのパーツも足りないので特殊なセッティングもしたい。
「俺、先に行くよ」
と言うワシをS社長が止める。
「まだ前の収録が終わってないんだからぁ。行ってもしゃーないよ。飲も!」
飲も!じゃねえって感じである。

しばらくしてスタッフが呼びに来る。
行って見ると前の収録は零点(ゼロ・ポイント)と言うロックバンド。
売れない頃に時々一緒に遊んだもんだが、今はブレイクして大金持ちである。

そこのドラマーからハイハット等忘れ物を借りようかなあとも思ったが、
まああてぶりだからいいか、と自分の歯抜けドラムをセッティングする。
タムを左側に多めに被せて、ハイハットがあるべきところを隠すようにする。
まあハンディーカメラが傍まで回り込まない限り自然なセッティングではある。

リハーサルが始まる。
「ファンキー、衣装を出せ。カメラ合わせで吊るしてやるから」
スタッフが言いに来るが、
「ほならワシ、その衣装に着替えてリハやりまっさ」
そそくさといつもの黄色い「寝巻き」と呼ばれた服に着替える。
これしか持ってないのである。
ご丁寧に同じく黄色にコーディネートされたバンダナ付である。

カメリハが始まる・・・ように見えるがイントロが流れるとすぐ次の曲に行く。
「ああ、これはサウンドチェックなのね・・・」
と納得しつつ一応あてぶりなどをやっては見るものの、
じーっとこちらを覗きこむ美人ADが気にかかって仕方がない。
また「外国人は出演禁止」とか言われても困るので、
一生懸命
「実はのおばあさんは中国人で、私は日本で生まれた華僑で・・・」
とか言い訳を考える。
外国人はダメだが華僑はいいと言うのは差別である。
それでもじーっとこっちを見てるので
「どうかしましたか?」
と中国語で声をかけてみたら、
「いや、あなたの服を見てただけよ」
とちょっときつめの(中国美人はだいたいきつめだが)美人は答える。

何事もなかったかのようにサウンドチェックが進むかに見えたが、
おもむろにS社長がやって来て、
「ファンキーさん、そのバンダナ、ダメだって。ついでに髪の毛も後ろで結わえて下さい」
前回中央電視台の公開録画のイベントに出演した時も、
偉い人からバンダナにクレームを受け、
外して長髪のままいたらそれもクレームを受け、
結局侍のように髪をたばねてコンガを叩いた。
中国のお偉いさんはバンダナが嫌いなのか!!!
しかもワシ以外の奴はみんな同じく長髪やでぇ。
あのオタクの新人くんはよくって、何でワシだけあかんねん!

バンダナを外し、髪を結わえて残り数曲のイントロ部分を合わせたらいきなり
「はい本番です!」
本番かいな!カメリハはやらんのでっかいな!ゲネプロは?・・・
ワシ、どんな曲かまだ全然知りまへんがな・・・

楽屋でS社長に「CDウォークマンある?」と聞いて見る。
「ないよ」
お前、楽屋では音聞ける言うたやないかい!

どんな曲をやるやもわからずそのままステージに・・・
「アジア最高のドラムキング、ファンキーです」
陳琳からものものしく紹介されて公開録画用の客に向かって挨拶する。
マヌケである・・・
曲が始まる。
カメラが右手方向から回り込む。
「おいおい、これ、バラードやんか・・・ドラム入ってないやんけ!」
どうせ回り込むなら激しい曲で回り込んで欲しいもんやった・・・
ハイハットがないのを身体で隠しながら、
音には実際は入ってないシンバルなんかを叩いてみたりする・・・
大マヌケである・・・

曲の後半でドラムが入る。
あれ?聞いたことあるなあ・・・
思い出せばこれ、俺がレコーディングで叩いた曲である。
そうなれば話は早い。
曲は忘れていても癖はわかるから、
オカズとか入りのフレーズを聞けばそれだけですっと叩ける。
すまん!俺のフレーズって多彩に見えて実は結構ワンパターンなのよ・・・

2曲目はアップテンポの曲。
これも俺がレコーディングで叩いた曲。
このプレイを聞いて張亜東に「自分の曲は今後全部こいつに叩かせる」と言わしめた。
しかしどんな曲やら覚えてはいない。
情けない・・・

だいたいスタジオミュージシャンと言う仕事は、
その音楽自体を実はあんまし覚えていない。
プレイも自分の手癖手なりでやっているので
自分の音楽生活としてはさほど印象に残ってない仕事が多い。

その昔、少年隊のレコーディングに呼ばれた。
どんな曲やらまるで覚えてないが、
ある時有線で流れてたドラムフレーズで、
「これ、俺に似てるドラマーやなあ」
と思ったらその曲だった。

街角のオーディオショップのテレコからドラムソロが流れてた。
「いなたいソロやってんなあ。誰が叩いてんねん」
と思ったらキョン2に提供した曲でワシが叩いたソロやった。

そんなことをぼーっと思い出しながら収録は進み、
アップの曲ではハイハットを叩く振りをしながらスティックは空を切る。
これって大リーグボール3号の星飛馬の手首ぐらい負担がかかるのよ・・・
過酷な100本ツアーで傷めた手首は勲章になるが、
あてぶりの仕事にハイハット忘れて傷めた手首はどうしようもない・・・

ステージは進み、今度は陳琳の最新アルバムからではなく、
いきなり過去の彼女のヒット曲が流れ出した。
もちろん知らない曲なのだが、音が流れたらついあてぶりをしてしまい、
バンドのメンバーもこれは打ち合わせになかったのか、
さすがにみんな狼狽は隠せない。
キーボードは鍵盤までアップにはならないのでいいが、
ギターやベースは指板が画面に映り込むので必死である。
ギターの奴など困り果ててドラムを煽ってる振りをしながら後ろを向いている。
後姿で煽っているフリをしながら顔で困っているのである。
「頼むからワシにその困った顔を向けるな!ワシの方が困ってんねん!」

過去のヒット曲、1コーラスが終わり、いきなり次の曲につながる。
「ヒットメドレーやないかい!」
テンポが変わるとドラマーはもうお手上げである。
もうどうしようもないとむちゃくちゃ合わせていたが、
何かその中の曲でも合わせやすい曲と合わせにくい曲とある。
合わせやすい曲をあてぶりしながらふと思い出した。
この曲はワシが6年前にレコーディングで叩いた曲である。

懐かしいなあ・・・

当時はOnAirしてはいけない精神汚染音楽だったロックが、
革命の歌の残骸である中国歌謡を凌駕し、
その巻き返しとも言えるニューミュージック(古い言い方やなあ・・・)
がポップス界を席捲していった。
陳琳もそのひとりである。
そして今では、
日本と同じく宣伝費をかけない音楽はどんないいものであっても売れず、
ロックバンドはテレビに出て金を稼ぎ、
こうして歌謡曲歌手と肩を並べてカメラに媚を売る。

ま、俺なんぞもそんな世界でスタジオミュージシャンやバックバンドをやってるんだがね。

収録が無事終わり、
ドラムセットなどを片付けていると、
いきなり陳琳のマネージャーからギャラを手渡される。
「そんなあんたぁ・・・ステージで裸銭渡さんでもぉ・・・」
まああてぶりなんでスタジオ仕事やアレンジ・プロデュース料に比べたら微々たるもんだが、
それでもここ数日は遊んで暮らせる。

ま、いいか・・・飲みに行こっ!

ファンキー末吉


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