ファンキー末吉とその仲間達のひとり言

----第34号----

2000/12/30 03:50

年の瀬である。

俺は高知に来ている。
フィリピンパブに行くためではない。
子供を連れて母の実家に里帰りと言うわけである。

年末年始の帰省ラッシュで、
飛行機たるや5歳と2歳の子供連れだと往復8万円もかかる。
ちなみに嫁はご両親が北京から来ているので置き去りである。

それにしても去年は働きに働いた俺は、
ツアーで使った「九州まで船の旅35時間」と言うのにえらくシビレた。
数年前、凍った豆満江を渡って北朝鮮に密入国して記念撮影を撮ろうと、
北京から延吉までの37時間列車の旅をしたのを思い出した。

その時もやることがないのでひたすら酒を飲み、
走れど走れど変わることがない地平線に沈み行く夕日を二度見た。
中国は広いなあ・・・と心に、体に、そして胃袋に染みた旅だった。

今回ツアーでフェリーに乗り、
今度は太平洋の水平線に沈み行く太陽を見ることとなる。
いやー、海は広いな大きいな・・・である。

「よし!高知へは船で行くぞ!」
嫁にはまたキチガイ扱いされ、キーキー言われるが、
もともと巧妙な言い訳をするほど中国語のボキャブラリーがない。
「没問題!」
の連発でケムに巻き、往復のチケットを購入。
今度は20時間の船旅である。
しかも子連れで往復4万円。
安い!

結婚して8年してつくづく思うが、
俺ほど家庭と言うものに向かない人間はいない。
女房子供の誕生日や結婚記念日を知らないだけならまだ現実的だが、
基本的にツアーに出たり、音楽に没頭している時には、
家庭とかの存在自体などまるで忘れてしまっている。

よく「辛い時は子供の笑顔を思い出して頑張りました」とか言うが、
はっきり言って思い出すことはまずない。
忘れないようにパソコンのデスクトップに貼り付けたりはするが、
基本的に仕事など、家族のためや子供のために頑張ってるつもりはないので、
辛い時とかにも思い出しようがない。
仕事=音楽だとすると、音楽は基本的に自分のためにやってるし、
音楽以外の仕事も、それがとにかく辛いものであってもそれは音楽のためにやってるし、
辛い時とかしんどい時は、基本的にそのこと以外を考える余裕がないので、
またどちらかと言うとしんどい時が多いので思い出すヒマがないのである。

まあそんな中で育った子供は不幸である。
一緒にいればそりゃ出来るだけ優しくしてやろうともするが、
一緒にいないのでそれも仕方がない。
これは20時間船の上で缶詰にでもされないとマズイぞ・・・

・・・てなもんで嫁の大反対を押し切って船に飛び乗った。

高知行きのサンフラワー号は、
俺や二井原が乗った九州行きの船よりさらに豪勢で、
食堂からサウナ付きの風呂まであり、
旅客は浴衣姿で船内を闊歩している。

そんな中を酒でも飲んでのんびり出来たらいいものを、
ところがそうはいかないのが子供である。
結局船酔いはするわ、熱は出すわで振り回されっぱなし。
まあこれも日頃の子不孝のしわ寄せか・・・

それにしてもこの家族、
何やら日本語ではない奇妙な言語で会話をしとるし、
かと言ってお父さんは喋るとちゃんとした日本語喋るし、
結局は熱を出した子供のために船じゅうの乗組員が帆走してくれ、
この奇妙な家族のために無料で1等船室を開放してくれ、
閉まってしまったレストランから無料でスープを作ってくれ、
思わぬ国際親善に心温まった旅だったのです。

いやー、旅はいい。
特に異国の旅はいいやねえ・・・
(俺は一体どこの人間や・・・)

不眠不休で高知に着き、
子供と共にやっとぐっすり寝た。

いやー、実は体の調子は最近よくない。
それもこれもツアー中に行った健康診断である。
山梨にギター弾きが院長を務める大病院があるが、
そこにバンドみんなで見てもらいに行った。
結果は全員「悪いところはない」である。

これだけ酒を飲み、無茶な生活をしていて悪いところがないのも拍子抜けである。
実は手首がやられていて、それも見てもらうと、
「これは大工さんなんかがトンカチ振ってよくなる病気で、
三角繊維軟骨集合体損傷、通称TFCC損傷っつう病気やな。
まあ手首を振る動きでくるぶしんとこの軟骨がやられてしまうんですわ」
とのこと。
まあ俺の仕事と大工さんの仕事とはよく似ていると言うわけである。
ま、肉体労働やしね。

この病気、手首の関節んとこに機械入れて、
レントゲンで見ながら軟骨削ると言う治療法もあると言うが、
まあそれほどひどくないので休ませれば治ると言うことである。
しかもその間、酒を飲んだりすることは別に手首には影響はないときた。

そりゃ医者からお墨付きの健康体の上に、手首に関係ないとくりゃあ飲むしかあるまい!
と調子に乗って体を壊した。

おかげで最近眠り病である。

クリスマスにも2日間スケジュールが空いていたので、
それこそ朝から晩までずーっと寝た。
マジで1日20時間ぐらい寝るのである。
これは昔からそうだったが、
大きなプロジェクトが終わったり、スケジュールがぽっこり空いたりするとひたすら寝る。
「いやー、毎日1日20時間寝てたよ」
と言うと人は「ヤバイよ、死んじゃうよ」と言ったりするが、
嫁もそう思うのか、「キモチワルイ!オキナサイ!」とばんばん蹴飛ばす。
蹴飛ばそうが殴り倒そうが、寝てると言うより死んでるに近いので効果はない。

人間の体と言うのはきっとうまく出来てるようで、
これ以上無理が出来ない時には体を冬眠させてしまうらしい。
ひさびさに正月にスケジュールが入ってないことを知っている体は、
自らを冬眠させて英気を養おうとしているに違いない。

そんな体の思惑をよそに、
俺は高知のライブハウス、キャラバンサライのマネージャーの西岡さんに電話を入れる。
「いやー、里帰りですわ。ヒマでねえ。何かありません?」
そして新年そうそうドラムクリニックとセッションライブをブッキングした。
ええんじゃろうか・・・

今年の正月は
13時間喋りっぱなし、35km走りっぱなし、その後11時間飲みっぱなし
で始まった。

来年はせめてのんびりとスタートする年でありたいもんじゃ・・・

ファンキー末吉


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