ファンキー末吉とその仲間達のひとり言

----第33号----

2000/11/18 12:20

T市よいとこ一度はおいで

昔、爆風スランプがデビュー前、毎月毎月
「大きくてすいません号」で関西にツアーに言ってた頃、
初日である渋谷ライブステイション終了後、街道レストランでコーヒーを飲みながら一言。
「ところで明日の米子ってどこにあるの?」
当時移動日なしの8連チャンとか当たり前で、
今回から初めてブッキングされた米子バンピンストリートでのライブは翌日である。
「米子か?島根県かなあ、鳥取県かなあ・・・まあどっちにしても山陰地方や」
知ってるのか知らないのかわからない返答をする俺。
「ふーん、じゃあどれぐらい時間かかるのかなあ・・・」
当時運転担当であったパッパラー河合が聞く。
「調べてみよう・・・」
地図などを引っ張り出して調べてみる。
「末吉ぃ、まずいよぉ。雪道で山越えだし15,6時間はかかるよ」
げっ!
飲みかけのコーヒーをそのままにすぐに出発。
ひたすら運転して着いたのがやっと入り時間であった。
そのまますぐに機材搬入してライブ・・・

まあそんな思い出も笑い話であるが、
今回の五星旗の工程もそれに近いものがあった。
大阪終了後、夜走りして、翌日T市に着くのは午前中だろうと言う。
ひえー・・・
「ロイヤルホースでは飲酒禁止!
もたもたせんですぐ積み込みして出発!
ワシがへばったらメンバーが運転代わってや!」
同行した綾社長が激を飛ばす。

ところで俺のお袋はK県のUSAと言われる宇佐出身である。
(単にローマ字で書くとUSAと言うだけの話)
K県には小さい頃から数限りなく行ったことがあるが、
K県の隣の宇佐の、まあその隣ぐらいがT市かと思ってたら大間違い。
夜走りして朝方K県に着いた時、T市出身のベースの仮谷くんが一言。
「ここから更に、今まで走ったぶんぐらいありますから・・・」
ひえー・・・

仮谷くんが運転を代わって、曲がりくねった一般道をひたすら走る。
それが本当に走れど走れど着かない。
同じ百数十キロでも高速と山道とは違うのである。
「もうすぐかなあ・・・」
誰ともなしに声が出る。
「以前清水アキラがT市に来た時もこの辺でそのセリフが出たそうですから・・・」
ひえー・・・
海沿いの道に出て、朝焼けの中ひたすら走る。
海沿いと言っても曲がりくねっていることに違いはない。
「でも景色はいいし、何かいい田舎って感じやなあ・・・」
ピアノの進藤くんがやたら感激している。
「その田舎を通り抜けて更にもっと田舎に行くんですから・・・」
仮谷くんがそう説明する。

もう着くだろうと言うぐらいになって、景色がおもむろに賑やかになって来た。
「着いた?」
みんなの開放感が口から出るが、
「ここは最寄の一番大きな街、N市です。さらに1時間あります」
ひえー・・・

T市と言えばもう四国の端っこである。
ほう・・・俺たちは四国を半分横断したわけね。
それにしても四国ってこんなに広いのか・・・

列車はK市からN市までしか通っておらず、
そこからは更にバスでゆくことになると言う。
最寄の鉄道駅まで50kmと言う街なのである。
仮谷くんが帰省しようと思っても、
K空港まで飛行機で行って、
バスでK駅まで行って、
それから列車でN駅まで行って、
それからバスに揺られ・・・
とあまりに遠いのでめったに帰省しないと言う。
いわゆる車を持ってないと生きていけない土地である。

「みなさん、言っときますけど、外国だと思っててくださいよ、言葉通じませんから」
と仮谷くん。
なになに、K県弁ならお袋が喋ってるので聞き取れると思ってたら、
街に着いておばはん同士が何喋ってるか全然わからんかった・・・
旅館の大広間で仮眠を取らせてもらって午後2時起床。
メシを食って会場に向かう。

F会館と聞いていたのでコンサートホールかと思ったら
「パチンコF会館」の3Fの結婚式場だった。
まさに地元の人達の手作りコンサートである。

楽屋は新婦の着替え部屋。
・・・さて、ここからが本題である。
その楽屋から隣のビルのとある部屋が見えた時からこの物語は始まる。
(長い前置きやなあ・・・)

「お、凄いやん、あれ絶対ホステスやで・・・」
窓から景色を眺めていた綾社長がそう叫ぶ。
「どれどれ・・・」
男どもが全員窓に張り付く。
そして見えたのがフィリピン人らしき人影。
「フィリピンパブかなんかがあるんですか?」
地元の人に聞いて見る。
「そうなんですよ、最近はチャイニーズパブまで出来ましてねえ。
それが出来たとたんにT市の本屋から中国語の教材が売り切れたんですよ。
もう先に言葉覚えたもんの勝ちですからねえ・・・」
NHK中国語口座、一番視聴率がいい地域はここ、T市かも知れない・・・

さてそのフィリピン人ホステスに手を振ったら笑顔で手を振り返され、
「よーし、今晩はフィリピンパブに繰り出すぞ!」
と血気盛んな俺たちである。
ライブをちゃんとオンタイムで始め(普段は必ず押すのにねえ)、
地元の人が催してくれた打ち上げの席でも、
「フィリピンパブ!フィリピンパブ!」とうるさい。

「じゃあ行きますか・・・」
地元の人が腰を上げる。
聞けばこの狭い街、
総人口が2万人に満たない街にフィリピンパブが2軒あると言い、
ひとつはこの会館の関連の店だが、
俺たちに手を振ったのは違う方なのでそちらに行くのでは義理が通らないらしい。

まあ俺にしてみればフィリピンパブでさえあればどちらでもいい。
間違ってもチャイニーズパブなどに連れて行かれた日にゃあ、
よくてホステスの身の上相談、悪くて酔客の通訳で終わってしまう。
「フィリピン!フィリピン!」
うるさい一行が街を闊歩し・・・と言いつつも、
繁華街など歩いて数分で一周出来るぐらいなのであっと言う間に着いた。

入り口にはご丁寧に顔写真が張られている。
指名も出来るのであろう。
よく見ると、ケバい感じのフィリピン人に混じって・・・
何とチャイナドレスを着た数人のホステス・・・
「あのー、おっしゃってたチャイニーズパブってひょっとして・・・」
「ああ、ここですよ。フィリピンパブに最近チャイニーズを入れたんです」
げっ!

店内に入ると接客しているホステスが一斉にこちらを向く。
中にはライブに来ていたフィリピン人もいる。
後で聞くと、「同伴」と言うことで、
その後ホステスと一緒に店に来るならライブに連れて行ってもいいらしく、
これも水商売のひとつのスタンダードらしい。

「ワシあの娘がええ」
「いや、ワシはあの娘がええ」
などと口々に言うが、そうは思い通りの娘がテーブルにつくわけではない。
一番若くて可愛い娘はすでに別テーブルで接客している。
「イラッシャイ」
それでもまあまあ若くて可愛いフィリピン人ホステスがテーブルにつく。
地元の人が気を使って俺の右隣に座らせてくれる。
やったー!
「イラッシャイマセ」
今度は確かに若くて可愛いが、見るからに中国人。
「俺んとこ来るなよ、絶対に来るなよ・・・」
心の中でそう祈っていたが、地元の人が気を使って俺の左隣に座らせる。
がーん・・・
そしてよせばいいのに俺が中国語を喋れると説明する。
「あら、中国人?違うの?日本人?それにしても中国語うまいわねえ」
まだ日本語をほとんど喋れない彼女の目がランランと輝く。
がーん・・・
それから先はお決まりの身の上相談である。
しまった・・・
と思ったが時すでに遅し。
右隣のフィリピン人ホステスはその右隣の客の接客を始め、
俺はすでに左隣の彼女の接客である。
いや、正確に言うと俺が彼女の接客である。

「見ましたよ、ライブ。
よかったわー。中国語の歌も聞けて・・・
懐かしいわ・・・
え?私?来てまだ2ヶ月目。
日本語なんかまだ全然喋れないし、
この店の上で一緒に暮らしてる中国人ホステス以外の人と中国語話したのは初めて。
嬉しいわ、中国語で話が出来るなんて・・・」
これではT市で中国語の教材が売り切れたわけである。
「先に喋れるようになったもんの勝ち」と言う意味がよくわかる。
そして彼女の話はだんだん熱をおびて来、目が潤んでくる。

「東京から来たんですか?
東京はここなんかに比べたらもっといいですよねえ。
どんなところかなあ、東京って・・・
え?どこも行ったことないわよ。
沈陽から飛行機に乗って、広島で乗り換えて、そしてここ。
私にとって日本ってここしか知らないの。
友達?日本語喋れないし・・・・
第一ここに中国人って私達4人しかいないもの・・・ひとりもいないわよ。
彼女達とうまくやってるかって?・・・うーん・・・まあまあかなあ・・・」
彼女の顔がちょっと曇る。
話題を変えるように彼女は笑顔で話を切り返した。
「それにしても今日は私が日本に来て一番嬉しい日。
仕事しててね、こんなに中国語でお話出来て、最高の日だわ。
ねえ、あなた。
もし私が他のテーブルに呼ばれたら、指名して私をよそに行かさないで。
私、あなたとずーっとこうして話していたい」

げっ!・・・
右隣のフィリピン人ホステスが気になるものの、
俺は以後ずーっと彼女の独占物である。
頃合を見てトイレに立つ。
そしてついでによそのテーブルに座って、しばし地元の人のご機嫌を伺う。
彼女はと見れば、同じく地元の人を接客しているが、
ちらりちらりとこちらを見ている。
日本語喋れなくての接客も辛かろう・・・

「ごめんね、ほら、地元の人が頑張って俺たち呼んでくれたでしょ。
お礼言ってまわらなきゃ・・・」
そして結局は彼女のテーブルに帰って行ってしまう俺である。
そしてその後、俺はずーっと彼女の話し相手、兼、彼女と地元の人との通訳・・・

「閉店でーす」
スキンヘッドのこわもてのマネージャーがお愛想にまわる。
いくらかかるのかは知らない。地元の人の奢りである。
女の子達が入り口でずらーっと並んでお見送り。
帰り際に彼女に声をかけて見た。
「M市かK市だったらライブに来ることあるし、休みだったらまた見においでよ」
彼女の顔がちょっと曇る。
「車も持ってないし、無理だわ・・・」
思えばここは天然の要塞。
日本語を喋れなくてバスを乗り継いでこの土地を出るのは不可能である。
ちょっと彼女に同情しながら店を出る。

「もう一軒行きますか?」
「行く行く!もう一軒のフィリピンパブ行こう!」
突然元気になる俺。
「フィリピンパブはどちらも12時までなんですよ。
系列の店に行きますか・・・」
「行く行く!フィリピンじゃなくても日本人ホステスでも何でもええ!」

連れて行かれたお店は同じく系列のスナック。
しかし、見るからにがらんとしていて、ホステスもひとりしかいない。
「ま、いいでしょう。飲みましょう」
男4人でテーブルに座る。
たったひとりの日本人ホステスは他のテーブルで接客中。
「女の子呼んで来ましょうか」
地元の人がおもむろに立ち上がって外に出て行く。
「どう言うシステムなんですか?」
聞けば、先ほどのお店の女の子を「アフター」として連れてくると言う店らしい。
アフターしたいお客さんは、先ほどの店の店長にその旨を告げると、
ここの店等系列店だと許されるらしい。
他の店に行こうなどと言っても女の子の方から断られるのがオチらしい。

「女の子、全員予約が入っていてダメなんですー」
地元の人が悪そうに帰ってくる。
「まあいいじゃないですか、飲みましょうよ」
男同士の酒のほうが美味かったりする。
「おつまみの出前をしますが・・・」
メニューを持ってくる。
食べ物は全てが出前らしい。
「系列店の居酒屋から出前するんですけどね」
地元の人が耳打ちする。

しばらくすると団体さんが入ってきた。店がいきなり慌しくなる。
一緒に入ってきた女の子は全て先ほどの店のホステスである。
彼女もいた。目が合った。
何か言いたそうにずーっとこちらを見ている。
俺も地元の人と酒を飲みながら時々様子を伺った。
「いやー、うまいこと出来とるんですよ。
向こうの店はチャージが5000円でしょ、
こちらは3000円で安いと思うんですけど、
実際は女の子のぶんまで払わなアカンから6000円なんですよ。
実は1000円高いのに得した気分になるんですね」
地元の人が説明してくれる。
見ればいつの間にかスタッフは全て先ほどの店のスタッフがそのまま働いている。
彼女は酔客の相手をしながら、ずーっとこちらを見ていた。
時々酔客に笑顔を振り撒きながら、そして何かを言いたそうにこちらを見ていた。

「帰りますか・・・」
男4人で飲むだけ飲んで立ち上がった。
彼女の方を見ると、酔客が彼女に覆い被さってキスをしていた。
気づかれないようにそっとその店を後にした。

翌日、車の中で綾社長は上機嫌である。
「いやー、飲んだ飲んだ・・・。
昨日の日本人ホステス、かずみちゃんね。
16歳で出産して現在25歳で2児の母・・・」
よう知っとるなあ・・・
「いやーそれにしても昨夜末吉が話してたあの中国人、
次の店のトイレで会うたんやけど、
俺がニイハオとか中国語で挨拶した途端、
○☆★◎◇△□▲▼◇言うていきなり中国語で返されてもなあ・・・
俺がもっと喋れる思たんかなあ・・・そんなに中国語喋りたいんかい!」

・・・いや、やっぱ喋りたいんやと思うで・・・

二日酔いの俺たちを乗せた機材車は、
また山道を長い間かけてK県まで・・・
途中俺の携帯が鳴った。携帯の番号表示は「公衆電話」。昨日の彼女である。
「昨日はほんとにありがとう。もっともっとお話したかった。
2軒目の店であなたに会った時、心は焦って焦って・・・
でも別のお客さんについてるから仕方ない。また会えますか?
今度こっちに来る時には必ず連絡下さいね。
ライブ頑張ってね。成功すること祈ってます」

「末吉ぃ。モテるやないかい・・・」
綾社長がそう茶化す。
「また連絡下さいね。の連絡先どこか知っとるか。あの店や。これが水商売の世界やで」
もらった角の丸い名刺を車の窓から放り投げた。
彼女の源氏名と店の番号、
そして手書きで彼女の本名と中国の実家の電話番号が書かれた名刺が
風に吹かれて黒潮の海に落ちた。

さいはての土地、T市。ちょっとBluesな素敵な街だった。

ファンキー末吉


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