ファンキー末吉とその仲間達のひとり言

----第126号----

2007/05/11 (金) 5:11

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中国最大のロックフェスティバル
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MIDIロックフェスティバルは、もともとMIDI音楽学校の文化祭としてスタートした。
開校は俺が90年に初めて北京に来た頃で、
91年と95年(だったかな?)、
俺も特別講師として呼ばれて講義をしたことがある。

当時の学校施設はお世辞にも立派とは言えないもので、
一応「現代音楽」を教える専門学校として登録はしているものの、
実のところここが中国で唯一「ロック」を教えてくれる学校であることは周知の事実で、
その「ロック」を政府はまだ目の敵にしていた時代だったので、
その学校やこのイベントの歴史が順風満帆でなかったことは想像に難くない。

幾多の困難を乗り切り、
このMIDIロックフェスティバルはのべ10万人以上を動員するアジア最大のロックイベントとなった。

校長であり、このイベントのプロデューサーである張帆(ZhangFan)に街でばったり会う度に、
「Funky、今年こそは出演してくれよ」
と昔から言われてはいたのだが、
なにせこれだけ大きなイベントなのに出演料は「ゼロ」である。
日本から誰かを呼ぼうにも全部持ち出しとなってしまう。

悩んだ末に、今年は盲目のギタリスト田川くんを呼ぼうと心に決めた。
俺が初めて彼のギターを聞いた時の感動を
中国のロックを愛する若者にも与えてやりたいと思ったからである。

張帆(ZhangFan)に電話したら、
「それは素晴らしい!」
の一言で即出演は決定したのだが、
よくよく話を聞いてみると、ボーカリストがいないユニットは
メインステージではなくその隣の小さなサブステージでの出演となると言うことである。

渡航費まで持ち出してノーギャラで出演してサブステージではやはり面白くない。
「メインステージじゃなきゃヤダ!」
と駄々をこねてみるが、
「わかってくれよ、
毎年どれだけのバンドがメインステージに出たいと言ってくるか・・・」
と泣きを入れられたりしたらもう仕方がない。
一時は出演をあきらめたのだが、
ボーカリストと言われてふと思いついたのが「世界の二井原実」の存在である。

「LOUDNESS」って知ってる?
張帆(ZhangFan)にぶつけてみると、
「知らない」
とあっさり一言。
LOUDNESSが世界を席巻してた時代は、
中国ではまだロックが解禁されてなかったのである。

「よかったらその音を聞かせてくれないか」
と言うので、ふと思いついてLOUDNESSではなく
XYZの中国語バージョンを送りつけてみた。

「何て素晴らしい音楽なんだ!!メインステージ出演決定!!」
さすがは世界の二井原実、即決である。
まあ結果としては田川くんのついでに二井原を呼んだみたいになってしまったが、
同じバンドのよしみで許せ!二井原!
これも全て世界平和のためである!

かくして二井原と田川くんがやって来た。
さすがに田川くんと介添人にうちの院子に泊まってもらうのはあんまりなのでホテルをとったが、
持ち出しにも限界があるので二井原にはうちの院子に泊まってもらった。
(許せ!二井原!!これも世界平和のためじゃ)

さて、現地の若いベーシスト韓陽(HanYang)と共にうちで2日間ほどリハーサルをした後、
予想通り会場でのサウンドチェックもなくいよいよ本番である。

写真:次の出演者の出番を待つオーディエンス

こんな大きなイベントで、
しかも中国なんだから仕切りは予想通り最悪である。
田川くんの日本製のエフェクターは
現地スタッフがそのまま220Vに接続してしまい電源が焼けてしまった。
俺は自分のドラムのセッティングもそこそこに、
他の出演バンドにエフェクターを借りに走る。
嫁は電池をGetすべく走り回る。

同行取材で張り付いている日テレのカメラマンから電池の方が先にGet出来た。
エフェクターは電池で正常に動くようである。
とりあえず音を出してみる。

サングラスをかけて、何故かアンプをすぐ手元にセッティングしている変なギタリストが出す音に
客席はいきなり狂喜乱舞する。

「ウォー!!」

気を良くした田川君はまたギターを弾く。
観客はまた狂喜乱舞し、会場は演奏前から超ヒートアップである。

ギターのサウンドチェックで狂喜乱舞するオーディエンスの声

準備が整った。
二井原が客を煽る。
客席は更にヒートアップする。

世界の二井原の煽り

「生きるとは何だ?!」
二井原がタイトルを絶叫すると同時に
俺はハイハットを全開にしてカウントを叩き出した。
テンポ180を超すXYZの超速ナンバーが始まる。
命の限りツーバスを踏む俺。
首も折れよと頭を振る二井原。
客席の反応は・・・

しーん・・・・

それまで興奮のるつぼだった観客を一気に置いて行ってしまった。。
曲が始まるまであれだけヒートアップしていた客は、
それまで聞いたことがない超速ナンバーについて行けず
いきなりどん引きしてしまったのである。

喉も裂けよと叫ぶ二井原、
腕も折れよと叩きまくる俺、

・・・しーん・・・

ところが何万人のどん引きしたオーディエンスが、
ギターソロが始まる頃までにはだんだん変化が見られて来た。
ひとりが正気に戻って隣をつつき、
つつかれた人間がはっと我に返りこぶしを上げる。
そしてギターソロでは客席全員がついにヒートアップ。
気を良くした田川くん、
ギターソロ終わりでリフに戻るところにも超絶テクニックでソロをちりばめる。

「ウォー!!」

ギターソロに狂喜乱舞するオーディエンス

1曲目を大狂乱のうちに終えた俺達は、
予定通りそのまま2曲目の「Why Don't Ya Rock And Roll」につなげるべく、
エンディングのかき回しの中、そのまま客席を更に煽る!

Everybody say Yehhhh!

さすがは世界の二井原実である、
オーディエンスは再び超ヒートアップ。
俺達はかき回しを大仰に締め、
そのブレイクで二井原が「Why Don't Ya Rock And Roll」を歌い出そうとしたその瞬間、
「すみません、ちょっと止めて下さい。MCが入ります」
とスタッフが飛び出して来た。

悪い思い出がよみがえって来た。
15年前、ラジオ局のイベントに爆風スランプで出演した時に、
1曲目が終わった時にいきなり中止命令が出たのである。
いきなりMCが出て来て
「ありがとうございました。爆風楽隊のみなさんでした」
と送り出そうとする司会者を無視して俺達は演奏を続けた。

結果、電源を落とされ、
PAスタッフは羽交い絞めにされて連れ出され、
それを止めようとしている中国人スタッフが
公安にぼこぼこに殴られているのがステージ上からもはっきりと見える。

ドラムとアンプの生音だけで予定の4曲を全て演奏し終わって
俺達は別室に軟禁された。
中国人スタッフは
「お前らは外国人だからまだいい。
中国人の俺はきっと奴らに殺されるんだ」
と震えていた。

もう15年以上も前の出来事である。
考えてみればこの同じ国の中で同じようにロックをやって、
それが許される方がおかしいのかも知れない。

MCを無視して曲を始めるべきか、
それともここはおとなしく引き下がるべきか・・・
スティックを持った手に汗がにじむ・・・

MCが口を開いた。
「みなさん、ここでこのギタリストのことをご紹介しましょう。
彼は先天性の病気で全盲になり、3歳の時にギターを始め・・・」

何でここでお前が出てきて田川くんの紹介せなあかんねん!!!

ありえん!
ありえなさすぎる・・・・

中国語がわからない二井原は次の曲を歌い出すに歌いだせず、
宙に向かって口をパクパクさせている。
あきれ顔で俺は二井原に目くばせした。

「いいよ。次の曲入って(ちょっと投げやり)」

それからと言うもの、
同様に客席はヒートアップしているものの、
少し方向性が変わって来た。

リズムに体を合わせ、手拍子を打ち、彼らが待つものは・・・
・・・ギターソロ・・・

「Why Don't Ya Rock And Roll」、
今回のアレンジではフリータイムのギターソロを入れてある。
二井原のボーカルと掛け合いながらギターがソロを弾き、
そして二井原の合図でまたブレイクダウンして最初から煽り直してゆく。
http://fretpiano.com/sound/dl/dl.cgi?WhySolo
客席がヒートアップして叫ぶ言葉は、

「SOLO!SOLO!」

エンディングから続けてドラムソロ
続けて俺は中国語で田川くんを再び紹介する。
「次は彼のギターインストナンバーだぞ!!」

http://fretpiano.com/sound/dl/dl.cgi?gtSoloEternal

その間お休みの二井原は、
狂喜乱舞する客席を、そして超絶テクニックで弾きまくる田川くんを
自分のビデオカメラでシューティングする。
世界の二井原実、この日は明らかに田川くんの「前説(まえせつ)」、
そしてカメラマンであった。
(許せ、二井原!これも全て世界平和のためじゃ!)

最後のナンバーは、
XYZの5枚目のアルバム「Wings」の最後に収められてる
「Wings〜Fire Bird」のメドレーである。
10分を超えるこの大曲を二井原は今回中国語バージョンで歌う。

曲調はバラード。
ギターと歌だけで歌うこの前半の部分では、
もちろん初めて聞く中国人が狂喜乱舞したりはしない。
ストリングスオーケストラの短い間奏の後サビに入る

ドラムとベースがハードに演奏に加わるサビでは
何割かのオーディエンスが拳を上げたりしているが、
果たして歌詞が聞き取れているのかどうか・・・

メドレー後半のFire Birdにつながるこの中間部分ではいきなり変拍子になる。

もちろん手拍子を叩くことも出来ない。
どうやって盛り上がっていいか作った俺でさえよくわからないアレンジである。

そしてリズムがテンポアップして後半の「Fire Bird」に入る。
XYZのライブではここで橘高が狂ったようにヘッドバッキングを始め、
客席もそれにつられてヒートアップするのだが、
盲目の田川くんが橘高のようなヘドバンをすることは出来ない。
ツーバスを振りながら頭を振る俺に煽られ、
ある者は一緒に頭を振り、ある者は拳を振り上げ、
しかし大部分のオーディエンスは相変わらず立ち尽くしている。

命の限りツーバスを踏み、命の限りシャウトする。
ちなみにこの曲にはギターソロはない。
伝えたいことを命の限り演奏するのみである。

演奏は全て終わった。
終演後のオーディエンスの声

数万人のオーディエンスにはそれが伝わったのかどうか・・・
俺は演奏後ベースの韓陽(HanYang)に聞いてみた。

「うーん・・・このイベントに来る客は、
どちらかと言うとアホなパンク聞いて盛り上がって
楽しく帰ればそれでいいと言う奴ばっかりだけど、
お前らの音楽は明らかにそれとは違う、
中身があると言うか深いと言うか・・・
こんな深い音楽性なんて奴らには絶対わかんないんだよね・・・
でも聞いた人はそれを心の深い所に刻まれて持って帰り・・・
あとで効いてくると言うか・・・
・・・うーん・・・何て言えばいいのか・・・」

難しい中国語は俺にもわからないから簡単に聞いてみる。
「まあ、よくわかんないけど、
じゃあとりあえず反感はなかったって感じかな?」

「いや・・・反感とかそう言うもんじゃなくって・・・
俺達中国人は聞いたこともやったこともないんだ、
こんな音楽・・・NiuBi(牛のオマンコ:Fuckin Greatの意)・・・
何て言うか・・・お前ら・・・凄すぎるよ・・・
特にギターの彼はもう・・・何て言ったらいいか・・・
・・・凄すぎる・・・」
最後は言葉にならず、彼は号泣してしまった。

片付けを終えた嫁が潤んだ瞳で俺にこう言う。
「パパ・・・私・・・今日はドラムの後ろで泣いたわ・・・
だってあの曲・・・パパがどれだけ命を削って生み出したか・・・
それを二井原さんがどれだけ苦労して中国語で歌ったか・・・
でもそれは発売されることもなく、
今日やっと日の目を見たと言うか、
中国人がこれを聞いて拳を振り上げてるのを見て、
私はもう涙が出てきて止まらんかった・・・」

俺達は音楽を生み出すのは別に人に認められようとして作るわけではない。
ある曲はランナーのように巨額の富を生み、
ある曲は全然日の目を見ずに終わってしまうこともある。
それでも俺達は作り続ける。
生み出す時はどんな曲でも同じである。
世に出たいかどうかは曲自身がそれを決める。

俺たちがロックをやること、
それは「金」や「名誉」を作っているのではない。
「歴史」を作っているのである。

中国でこんな自由なロックフェスティバルが行われる日が来るなんて、
当時の俺達は夢にも思わなかった。
でも「歴史」はそうなったのである。
その陰で俺はしこたま暗躍した。
この曲が次の「中国ロックの歴史」をどう変えるのか、
それは人知の知るところではない。
「歴史」が決めることなのである。

ただ俺達はこうやってロックをやり続けるのみである。
全てはその延長線上にある。

翌日はライブハウスで「日中お友達ロックライブ」を開催した。
ライブハウスはやっぱりいい。
非常に盛り上がって幕を閉じた。

帰国する時にはそのライブを見に来たファンから写真を一緒に撮ってくれと言われた。
「あちらのギターの方も是非一緒に」
と田川くんには言うのだが
喉の保護のために首にタオルを巻き、
山ほどの荷物をカートに乗せて押していってる二井原には気づかない。

世界の二井原実、
その声とパフォーマンスで数多くの中国人をノックアウトしたその男は、
結局は「荷物持ち」としてこの国を去ってゆくのである。
心配するな、 二井原!
お前が中国人に残した感動は必ず中国のロック史を変える!

・・・と願いたい・・・

(おまけ:SOLOコールをする観客。うん、思ったより世界は平和である)

ファンキー末吉


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