ファンキー末吉とその仲間達のひとり言

----第11号----

1999/12/04 16:10

風邪をひいた・・・

この寒空の下、ジョギングの格好をして、
その実、足を引き摺りながら歩いてるんだから風邪をひいて当然か・・・

鼻水をすすりながら現在Accsess2000と格闘中。
X.Y.Z.レコードの会計や受注発注、金銭管理までをやってのけるデータベースを構築中
(パソコンお宅の腕が鳴る)なのだが、
アルバム発売日に慌てて追加注文の電話がキングからかかって来て、
「こいつぁあ幸先いいぜ」
とばかり入金管理のデータベースに打ち込んでる時に、
ふと素朴な疑問に直面した。
「そもそもキングから受注を受けたぶんって言うのはいつ入金されるの?・・・」

さっそく契約書を取り出して来て読み返す。
「甲は乙に納めた商品を毎月20日を以って締切り、乙に報告します。
乙は、翌月16日に振出日起算92日手形にて代金を支払います」
相変わらず文章が硬くて何を言うとんのかようわからんが、
要は請求書を起こさなアカンと言うわけやと判明。
「誰か・・・キングに請求書・・・起こしとるわけないわな・・・」
俺がやらな誰もやるはずはない。
つまり誰も請求書を起こしてないと言うことは
いつまでたってもお金は振り込まれないと言うわけである。
「がっちょーん・・・」
データベースを組むより前に資金繰りからやり直しであった・・・
素人仕事はこれやから怖い・・・

さて、今日のお題
「イニシャル(初回流通枚数)」

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前回のまぐまぐを読んだ読者からこんなMailを頂いた。
なんと同じくタ○ーレ○ードにお勤めだと言う・・・


> 同じチェーン店に働く者として、恥ずかしいです。内々の事情は別として、お客
> 様に対する説明として体を成していません。在庫する、しないは、各店バイヤー
> の判断なので、私がとやかく言える立場ではありませんが、お客様に不愉快な思
> いをさせたことについては、同じタワーレコードに働く者として、お詫びさせて
> いただきます。

> アーティスト自らレコード店にファックスを流すほどの、ファンキーさんの並々
> ならぬ力の入れ様が、J-POPバイヤーになかなか伝わらないのが、傍で見ていて
> 歯がゆいです。うちの店でもアルバムは在庫するようですが、シングルは置いてま
> せん。ごめんなさい。洪水のようなリリースの中から、良いものをピックアップ
> して御紹介するのがバイヤーの仕事のはずなのですが、今はどこもバイヤーがそ
> の洪水の中で溺れてしまっているのが現状です。自戒すべきですね。


いえいえ、こちらこそ恐縮のきわみである。
無断転載すんまそん!

ちなみに先日、
ここにあるように全国のCDショップにFaxを流した。
「X.Y.Z.と言うバンドがリリースされます。
これこれこんなメンバーで、これこれこんなルートで販売します。
一枚でも入荷して頂けると幸いです。
よろしくお願いします。サンプルがご入用の方はこちらまで」
とか2000店ほどに流したのだが、
ある店からは「二度とFaxなど送りつけるな」とお叱りを受け、
ある店からは「ヘビメタ好きの従業員です。応援します」と頂いた。
まあこれも素人仕事のひとつなので、
結局パパママショップのように、まるで興味のないところにしてみたら、
これも一種の暴力であったのかと少し反省・・・

しかし俺は商売下手なのか、どうも「売って頂いてる」と言う意識が抜けない。
同じドラマーでも樋口っつぁんなんかだと、
「お前、これだけのメンツが集まっとるんやで、
イニシャル○○枚は行かな許されへんでぇ」
とぶちかますところだろうが、
気の弱い俺なんぞ最初っから
「無理のない数字から始めましょ」
と来とるもんやからイニシャルなど増えるはずはない。
その結果全国で品切れ続出・・・
まあ当然やわな。

でも去年、夜総会バンドの時にはイニシャルとの戦いだった。
営業所や支店の人達が本当に頑張ってくれて、
その時期の爆風よりもヘタしたら入っていたかも知れない。

イニシャルを突っ込むと言うことは、
それだけの在庫が発送センターの倉庫に、
そしてCDショップの倉庫に溢れると言うことである。
当然ながらそれが売れないと在庫がダブつき始める。
発送センターでは在庫数によって一日いくらのリスクが発生し、
小売店からの返品などあろうものなら、
そのリスクは全てレコード会社に、
ひいてはそのアーティストが振りかぶることとなる。

在庫がダブつき始めると、
レコード会社としては返品が怖いので、
次のシングル等でもっとイニシャルを突っ込んで勝負に出る。
営業としても必死である。
「○○ちゃーん、このアーティスト、売れるって言うから何枚仕入れたのに、
全然売れないよ」
と言う小売店に対して、
「大丈夫です。次のこのシングルでブレイクしますから。
今回のも同じだけか、もっと多く入荷して下さいよ。絶対保証しますから・・・」
こんな戦いが日々、レコード会社のセールスマンと小売店との間で繰り広げられるわけである。

レコード会社の制作が売れる物を余儀なくされて大変である話はすでに書いたが、
営業やセールスマンにとってもこれは死活問題なのである。
自分は大好きだが売れない物よりは、
確実に売上を伸ばせるアイテムを売っていかないとクビになってしまう。

小売店とてこれは同じである。
巷で噂になっているバラエティー番組の企画物に力を入れないCDショップなど、
どこでその莫大な家賃と人件費を払って維持できよう・・・

でもこれは今に始まったことではない。
中学生だった俺に無理やりロックのレコードを買わせていた近所のレコード屋のあんちゃんだとて、
「いやー、売れるんは演歌か歌謡曲ばっかりやなあ」
とボヤいていた。
「でもここってよそのレコード屋よりロックのレコード多いよねぇ」
と言う俺に対して、
「そりゃそうや。あんなつまらん歌謡曲ばっか売っとるんやったら俺こんなとこで働かん。
でもなあ、この街でロックのレコードなんて買うていくような人はおらへんのや。
けど店長からはな、なんで売れんレコードなんて仕入れるんや、言うて怒られるからな。
ボクみたいなんがロック買うてくれなこの店もよそみたいに演歌と歌謡曲しか置かんようになるでぇ」
「あんちゃん、ボク買うわ。一番お勧めのやつちょうだい!」

まあ、おかげでうちの家にはロックの最新版(そのあんちゃんが聞きたいやつ)は全部あった。


大人になると言うことはいいことである。
反面、そのあんちゃんの手口が読めるようになって夢もへったくれもなくなるが、
反面、そのあんちゃんの気持ちがよくわかるようになる。

爆風がデビューする時、
アンダーグランドの帝王であったパンクバンドの爆風を守ろうとする俺と、
売れるようにしようとするSONYの間に確執があった。
「あちら側の言い分はそうやけどなあ・・・」
SONYに対してあからさまに不満をぶちまける俺を、中野がこう諭した。

「末吉ぃ、あちら側、こちら側ってそれは何なんだ。
SONYだって俺たちを売ろうと頑張ってる。
俺たちだって頑張ってる。
このレコードは俺たちだけのレコードじゃないんだ。
ディレクターはもちろんのこと、
各小売店にセールスに行く全てのスタッフまで含めてみんなのレコードなんだ。
あちら側なんてどこにもないんだよ」

その言葉に感じ入り、それ以降爆風のイニシアチブを中野に譲って裏方に回った。

今ふとこんな風に思う。
イニシャルなんて少なくていいです。
その代わり「買いたい」と言う人には注文してあげて下さい。
そして店員さんがもし俺たちのこと好きなら、
1枚でいいから置いてやって下さい。
その街にもきっと俺たちのこと好きな人がいます。
それが売れたらまた1枚だけ入れて下さい。
今度はきっと2人が買いに来ます。
そしたらその時に2枚注文して下さい。

当然ファンの方々はCD入手困難になる。
でもね、みなさん。
俺たちはライブに行くじゃないの。
経費の問題もあるけど、全国いろんなところにブッキング中。
ライブに行けば必ず俺たちに会えるしCDも手に入る。

インターネットやダウンロード配信を目前に控えて、
世界的に著作権ビジネスの崩壊が危惧されている昨今。
信用出来るものはと言えば「ライブ」だけである。
俺たちにはそれがある。

ライブと言うものが楽しいのは、
そこにいるオーディエンスと共にひとつの空間を作り出しているからではあるまいか。
つまり、ライブと言うのはバンドだけのものではない、
客とバンドと、そしてPAや証明、ひいてはスタッフみんなと作り上げてるものである。
レコードとてそうあるべきではあるまいか。

多くのメーカーが、タイアップがないとリリースをしないと言う今日この頃・・・
多くのバンドが新曲が出ないとツアーをやらないと言う今日この頃・・・
そんな中で、タイアップなどひとつもなく、
無理してイニシャル突っ込むでもなく、
それでも店の片隅にそっと置いてくれてるCDがこのX.Y.Z.のCDなのである。

数年前テレビで見た「沖縄ブーム」の特集で、
ナレーターがシメにこんなことを言っていた。
「今、沖縄がブームである。
日本の一番南の島の音楽が、今日本を一番代表する音楽となろうとしている。
ある人はこう言った。
文化とは小が大を凌駕するときに生まれるものである、と」

四国の中学生であった俺が、
そのレコード屋のあんちゃんからしか聞くことが出来なかった「ロック」と言う音楽も、
今では一番多くの棚に並ぶ音楽となってしまった。
何かに対するアンチテーゼのためにありったけのパワーを込めていたロックと言う音楽も、
今ではその巨大になった存在を守るためにそのパワーの全てを費やさねばならない。

情報が溢れてるからなあ・・・
その情報の海で溺れているのはバイヤーばかりではない。
俺たちだってきっと同じだと思う。
「なんで売れたんやろ」
「わからん、仕掛けがよかったんちゃうん」
「なんで売れんかったんやろ」
「わからん、宣伝が悪かったんちゃうん」
なんて世界で俺はずーっともがいていたように思う。

幸か不幸か今は極端にも逆の生活を送っている。
音楽が悪かったら絶対にCDは売れんし、
ライブが悪かったら客は絶対に増えん。
全ては自分らが悪い。
は、は、は、わかりやすくていいではないか。

今後も「大」に対して誇りを持って「小」であれる存在でいたいもんやね。

ファンキー末吉


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