ファンキー末吉とその仲間達のひとり言

----第108号----

2005/04/09 (土) 11:01

また反日感情が高ぶってるんか???

中国に通い始めてからもう15年。
北京に住むようになってからもう5年。
どう言うわけか一度もその反日感情とやらに出会ったことがない。

去年はサッカーの試合でどうたらこうたらで、日本のラジオのインタビュー等を受けると
必ずと言っていいほど反日感情についての質問が来る。

まあ日本のマスコミは往々にして、
まず結論がありきでその結論に導くための材料を集めるやり方で番組を作るため、
(関連ネタ:https://www.funkycorp.jp/funky/ML/91.html)
こちらに住んでこれだけ長い人間から
「いえ?反日感情なんてあったこと一度もありませんよ」
なんて言われたら番組にならない。

まああったことも目の当たりに見たこともないので、「ある」とも言えないし、
本音を言えば
「俺が中国ロックのためにどれだけのことをして来たと思う?
俺の前で反日感情なんぞ持つ人間が現れたら
中国じゅうのミュージシャンから袋叩きに合うぞ!」
とでも言いたいもんだがそうもいかず、
「まあひとつの視点だけでみてそれが中国を代表することは土台無理なことなんで・・・」
とひとつひとつ説明するしかない。
反日感情の中で苦しんでいる企業も実際あるだろうし、
ワシのようにこれだけ深く関わりながら15年間一度もあったことがない人間もいる。
それもひっくるめて「中国」なのである。

まあ反日感情ではないが一度、
よく仕事をやってるLuanShuと言うプロデューサーに売り込みの電話があったと言う。
「LuanShuさん、あなたも中国人なんだからぼちぼち中国人のドラマーを使うべきですよ」
LuanShuはその時笑ってこう言ったと言う。

「Funkyのことか?アホか!あいつは中国人じゃい!」

彼と出会ってもう15年。
いい時も悪い時も、更にはワシは彼が一番どん底の時に唯一そばにいた人間でもある。
中国人だ、日本人だを超えて、誰が俺達のこの間に入って来れる?

まあそう言う意味では特殊な日本人じゃわのう・・・ワシは・・・
とても日本人を代表してコメントなんか出来んわい

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江建民(ジャン・ジエンミン)と言うギタリストがいる。
中国ポップスのファンなら一度は彼の名前をクレジットの中で見たことがあるだろうし、
そうでなくても必ず一度は彼のギターを聞いたことがあるはずである。
台湾のあらゆるヒット曲のアレンジをし、あらゆる楽曲にギタリストとして参加している。
ワシのアシスタントの重田に言わせると「台湾のスティーブ・ルカサー」だそうだが、
そんな超売れっ子ミュージシャンが去年北京に移住して来た。

日本のスタジオの世界は、アレンジャーはアレンジャー、プレイヤーはプレイヤー、
ある偉いプロデューサーが昔、
「○○クンもいつまでも”弾き”やってないで早く”書き”やんなきゃ」
と言ってたのを聞いたことがあるが、どうも日本では
プレイヤーを卒業してアレンジャーやプロデューサーにグレードアップするようである。
だから小室はすでにキーボードプレイヤーではないし、
その他名うてのアレンジャー、プロデューサーを
プレイヤーとしてスタジオに呼ぶような恐れ多いことは通常ありえないが、
こちらではある時はワシの仕事で江建民(ジャン・ジエンミン)をギタリストとして呼び、
またある時は彼の仕事でワシがドラマーで呼ばれたりする。

そんなかんなでしょっちゅう仕事をしてるので仲良くなり、
ある日興味しんしんで質問してみた。
「何てあんたほどの超売れっ子がわざわざ台湾捨てて北京くんだりまで来たの?」
ワシとしては
「いやー・・・実は北京の娘に恋をしてねえ・・・」
などとロマンチックな答えを想像していたのだが、答えは簡単明瞭。
「音楽業界不況真っ只中の台湾のどこに仕事がある?」
であった。

あんたほどの超一流に仕事が来ないほど?・・・

そう言えば日本の音楽業界もまた売り上げ40%ダウンたらなんたら・・・
古株は相変わらず君臨してるわ、若手はどんどん台頭して来るわ・・・
まるで日増しに小さくなる丼の飯を
どんどん増え続ける大勢の人間が奪い合いながらむさぼっているようなもんである

・・・日本のミュージシャンってホンマに仕事あんの?・・・

インターネットのダウンロード等に押され、全世界どこの音楽界も不況である。
中国の海賊版事情も同様に、いやもっと深刻ではあるのだが、
この国はそれを上回るほど人口が多い。
日本全土がすっぽり入るぐらいの土地と人口を持つ中国のいち地方には、
日本人の歌手と同じぐらいの数の歌手がいて、
その地方が単純に10個以上はあり、
その全ての歌手が首都、北京に出て来てレコードを作るわけだから、
単純に10倍の仕事があるとすれば
例え日本と同じように売り上げ40%減になったとしてもまだ6倍の仕事がある。

まあそんな単純計算では割り切れないだろうが、それでも彼曰く、
「台湾の音楽業界は終った。残るは北京だけだ」

まあ、あんたらは言葉が同じやから楽やわなぁ・・・

しかしそれでも中国の音楽業界のシステムには戸惑うことも多いらしく、
同じく外地からやってきた先輩としていろいろアドバイスをする。
彼も今ではもうすっかり慣れてしまったのか、中国らしく
「ファンキー明日空いてる?」
で仕事が来る今日この頃である。

そんなある日、また彼から仕事が来る。

ワシはと言えば、命に関わるからもう今年から無茶な仕事の入れ方はやめよう
(関連ネタ:https://www.funkycorp.jp/funky/ML/107.html)
と決意したものの、
スケジュールのブッキングがいつもこうも突然ではなかなかそうもいかない。

その日はLuanShuと共に10年前にバイク事故で死んだ、
中国を代表するロックバンドのひとつ、唐朝のベーシスト、ZhangJuの
追悼アルバムをレコーディングしているところで、
今年からアレンジ、プロデュースはあんましやらんよと言ってはあるものの、
死んだ友人のためならいた仕方ない。これは仕事ではない!!
若いバンドをひとつ受け持って、
風呂もトイレもない長屋のような彼らの住居の彼らの練習場でリハをし、語り合い、
「俺、好きやなあ・・・こんな生活・・・」
と、また自分の四畳半時代を懐かしみながら感情移入し、
まさにそのレコーディング当日にダブルブッキングで仕事を受けるハメとなる。

仕方がないのでバンドに朝早くスタジオに入ってもらい、(迷惑な話やのう・・・)
レコーディング途中で抜け出して江建民(ジャン・ジエンミン)のドラム録り。

今年は頑張らんのちゃうんかい!!

でもまあドラムの仕事ですし・・・
スタジオ仕事は順調だと1曲30分ほどで終るし・・・
と思っていたら彼の譜面(と言っても五線譜ではなく中国式数字譜ですが)を見てびっくり!!
8小節に渡るギターとオールユニゾンの32分音符を含む複雑なキメ・・・
まあ人間が物理的に叩ける速度ならどんなに難しくても叩けないはずはない!!
と覚悟を決めてそのままDEMOを聞いていると
サビは確かどこかで聞いたことがあるようなメロディー・・・

「これ・・・BEYONDの曲やん!!!」

タイトルを見ると「長城」。まさにワシとBEYONDが出会った時、
彼らが日本で初めてレコーディングをしていたまさにその曲である。
そしてワシらは友達になり、その後リードボーカルの黄家駒はワシの目の前で死んだ。

「ちと時間くれるか?」
日本のスタジオミュージシャンは1時間いくらであるが中国は1曲いくらである。
でもここが日本であってもワシは時給いらんから時間くれと言ってただろう。

光栄な話である。
死んだ友人が作った歌を、10年以上の月日がたった今ここで、
こうしてワシがその曲のドラムを叩いているのである。

死んだ友人のためである。これは仕事ではない!!
たっぷりと感情移入させて頂いてスタジオを後にする。

元のスタジオに戻るとバンドはまさにギター録りの真っ最中。
今日じゅうに歌まで全部録り終わらねばならない。
夜中の3時にやっと終了。長い一日を終える。

何か今日は死んだ人間のためオンパレードの日やったなぁ・・・
うん、よう働いた。

「ありがとう、私達のためにこんなに頑張ってくれて」
とバンドのマネージャーからショートメールが届く。
いやいや、君たちのためっつうか・・・別にそう言うわけでも・・・

まあよう働いたことは働いたが、何のためと言われてもほな何のためやろ・・・
人間なんでこんなに一生懸命働くんやろ・・・
食うために? 生活のため?
音楽なんて100%金のためやったらこんな割の悪い仕事もないでぇ。時給低いでぇ・・・

まあもともとは自分で金払ってバンドやってたのが原点である。
音楽なんてもともと金払ってやるもんである。
それがこんなありがたいことに、金もらって、
しかも人に感謝され、尊敬され、お金をもらう・・・
こんなありがたい話があるか!!
よし、かっこつけて胸張って声高に叫んでやろう。

音楽は金のためにやるもんじゃない!!

ふふふ・・・かっこいいぜ、俺・・・と思ってたらふと思い出した。
昼間の江建民(ジャン・ジエンミン)の仕事のギャラまだもろてない・・・
(こちらの仕事はその場で現金清算、とっぱらいが原則)

すまん、やっぱ金も必要です。次の仕事ん時絶対清算してや!!

ファンキー末吉


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