ファンキー末吉とその仲間達のひとり言

----第107号----

2005/03/13 (日) 6:55

迎春にたてた今年の目標

先日爆風の再結成ライブで
パッパラー河合とサポートキーボーディストのエンペラー福田が話しているのを聞いた。

「福田さん、ソフトシンセって使ったことある?」
「あるよ。この前仕事でFM7のレポートの仕事やってねえ。
いやー、あれは結構凄いよ。使えるよ。」

ちなみに福田さんは「日本シンセサイザー協会副会長」とか何かの肩書きを持っている
いわゆる日本を代表するシンセサイザー奏者のひとりなのにソフトシンセがFM7???

https://www.funkycorp.jp/funky/ML/102.htmlでも書いたが、
この国では、中国の音楽家達は「海賊版反対!」と叫びながら、
自分は海賊版ソフトを使って音楽を作ってたりする。
だからどうせ使うならFM7よりももっと高級な、
日本だと高くて誰も手が出せないようなソフトを使う。

世界中のあらゆる最先端の優秀なソフトが全部「タダ」なのじゃよ!

今では中国を代表するプロダクションのひとつを取り仕切る
業界の風雲児となってしまったS社長がある日こんなことを言っていた。

「中国の政府のトップの人たちって、どれだけ頭がいい奴らだと思ってる?
一党独裁のこの国である日あいつらが本当にその気になったら、
”海賊版全部撲滅するぞ”
の一言で中国中の海賊版がひとつ残らず撲滅出来ちゃう人たちだよ。
でもどうしてそれをしないと思う?
今中国で流通している全ての海賊版からロイヤリティーを徴収したとしたら、
中国は何百億単位の金をアメリカに払わねばならない。
結局儲かるのはアメリカなのよ。
そんなの国益を考えたらたとえ明日出来たとしても絶対やるわけがない。
今の状態で中国人民が海賊版音源や映像を見放題聞き放題で耳も肥え、
海賊版ソフトを使ってクオリティーの高い音楽作ったりしてそのうち、
そのうち中国がアメリカからお金を取れるようになってから撲滅すればいいのよ。
そのぐらいのことを考える人たちだよ、あの人たちは・・・」

本当かウソかはわからない。
しかしこの海賊版おかげでこの国の若い音楽家達は
日本だとひとつが何十万もするソフトを平気でいくつも使いこなし、
日本人よりももっとアメリカやイギリスのヒットチャートに精通していて、
ほんと、ここでアレンジャーとしてやっていこうと思ったら
通常の日本人アレンジャーぐらいのレベルではやっていけないのではないかと思う。

その昔、ピアノとオーケストラしか書けなかったアレンジャーが、
シンセサイザーの発明によりシンセサイザーを使いこなせないと仕事が出来なくなった。
そして今、ソフトシンセ、プラグイン、あらゆるデジタル機器に精通してないと、
特にここ、中国ではアレンジャーとして食っていけない。

アレンジの概念もすっかり様変わりしてしまった。
私ぐらいの世代のアレンジャーは
「いい対旋律を書くこと」がすなわちアレンジだったのに対し、
今の世代は「いい音色やループを選ぶこと」がすなわちアレンジである。

1音色選ぶのに一晩徹夜せねばならんのよ!!!

ソフトシンセ、こちらではVSTプラグインが広く使われているが、
ひとつのソフトがどう言う個性を持っているソフトかを知るために、
全音色聞き比べ、軽く使ってみてそのソフトの概念がわかるまでに
ヘタしたら1週間は徹夜せねばならない。
そんなソフトが100個以上手に入るとしたら
その中から気に入ったいくつかのプラグイン以外を捨てて
自分のシステムを完成させるまでに幾晩徹夜せにゃいかん?

更にVSTプラグインの高度な使い方としては、
音色の中に既にリズムやメロディーなどが含まれている音源データ自身を、
曲と完全に同期させながらリアルタイムにエディットしつつ、
そのエディット情報を音楽データと一緒にデータに書き込んでゆくことが出来る。
つまりメロディーを打ち込むように音色の変化を打ち込むわけである。

ここまで来ると、1週間徹夜してやっと理解出来るソフトを100個以上、
つまり100週間以上徹夜して選んだ自分のシステムの中から
1音色選ぶのにまた徹夜してそれを何音色も選び、
その選んだ音色をまた幾晩か徹夜して何パターンにもエディットする。
この国の若き天才アレンジャー達・・・
彼らは果たして幾晩徹夜してこのレベルまで達成したと言うのだろう・・・

でもこれって音楽?!!!

しかし世界中のロック、ポップス、全てのジャンルの音楽の中で
電子音、つまりデジタル音色が使われてない曲はないと言うぐらい
電子系は今や流行と言うより定着に近い位置まで広がった。

音色が勝負!
だったら同じセンスだとしたらたくさん音色持ってる人が必ず勝つよ!

海賊版のない日本で同じ環境を構築しようと思ったらいくらかかる?
こんなことが出来るのはよっぽど売れてて金が有り余っている
ほんのほんの一握りの人たちだけであろう。

そのうち絶対負けるよ、日本人・・・
いや・・・もう既にもう負けとるかも知れん・・・

まあワシと言えばテクノ大嫌い、電子系も全然好きじゃない、
特にロックはシンセもいらん!と言うXYZ魂ばりばりの人間である。
ところが耳が肥えたこの国のクライアントが発注するアレンジには、
まあ世界的な風潮から見てもそうなのだが、
必ずデジタル、電子系の味付けが不可欠である。

デジタルの師匠、若きプロデューサーDの仕事を
彼の作ったデータを見せてもらったりして勉強する。
そしてある日わかった・・・と言うか、悟った!

彼にとってコンピューターと言うのはワシにとってのドラムと同じ。
つまりアレンジャーにとってパソコンそのものが「楽器」なのである。

その日からワシは電子系に対しての嫌悪感がなくなった。
勤勉で真面目がとりえの日本人気質、「仕事」となれば「好き嫌い」は関係ない職人肌、
さらにはワシの負けず嫌いとパソコン好きが災いして、
今では電子系のアレンジの発注まで来る始末。

でもそのためにワシが幾晩徹夜した?!!!

更には次のXYZの新譜を自分の今までの集大成にするべく
並行して壮大なコンセプトと組曲を1年かけて作り上げているので、
気がついたら北京では2日間寝ずに働いて6時間寝てまた2日間徹夜する生活が続く。

こんな生活がいつまで続く?!!!

その代わり日本に帰ったら反動で15時間寝続けたりする。
人間、寝ないと死ぬのである。
実際「ああ・・・あともう少し行くときっと死ぬんだな・・・」と思う瞬間もあった。
ドラム叩きながら死ぬのは本望じゃが、
このファンキー末吉がパソコンの前で死んでそれでええんか?!!!

と言うわけで、旧正月に里帰りして15時間寝ながら考えた。
音楽的に深いドラミングや、数々のアレンジ、プロデュースの仕事が評価され、
「ドラマー」と言うよりは「音楽人」と評価されることが多くなった今日この頃。
「ドラマー」としてはそんなに自分の前を走っているドラマーを思いつかないが、
アレンジャー、プロデューサーはこの国では若き天才達がたくさんいる。
その人達全てを死ぬまでに追い越すべくもっと頑張るか?

もうええじゃろ、ドラム叩いてなんぼでその金持って飲みに行くのが一番ええわ。

日本では10以上スタジオミュージシャンの値段は変わってないが、
こちらでは年ごとにミュージシャンのギャラが高くなり、私のドラムの値段は
S社長が5年前に当時の一番高いスタジオミュージシャンの値段設定してくれたのだが、
今では他のドラマーに比べてあまりに安すぎるから頼むから値段上げてくれ
とミュージシャン仲間にお願いされても頑として上げず、
その代わりアレンジの値段を最高額に上げた。

ワシに、この額を取ってるあの天才達と同じレベルの仕事が出来るんか?・・・

出来るわけがない。
でもこう言えばアレンジやプロデュースの仕事が減るからそれでいいのよん。
ドラム叩くよん。酒飲むよん。酔い潰れて寝るよん。

ええなあ・・・今年の目標は「頑張らない」

XYZの新譜も半分までは死ぬ気で作り上げたが、
後は橘高にでもおぶせて楽するとすっか・・・

と思ったら今度は橘高がつぶれた。
わかったわかった。やっぱみんな一緒にやろうな。
今年もやっぱ「ちょっとは頑張る」から・・・

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東京にヤサが出来た。

昔住んでた武蔵小山の5LDKマンション。
名義は母の名義なのだが、誰も住まなくなったので人に貸してたら、
今年になって突然出てしまうと言う。

そのまま遊ばしてたら管理費や固定資産税等でおふくろの年金が飛んでしまうので、
不動産屋に「次の借り手見つけて下さいよ」と催促するが、今日びのご時世で
家賃32万、売値5600万のマンションなんぞ貸すに貸せず売るに売れない。

はたと困ってたところに飲み友達のめいりんからメールが来た。
「友達男女4人で共同生活しようと部屋探してるんだけどどこも貸してくれないの」
日本ではルームシェアーの習慣が定着してない上に、
男女の共同生活と言うとまだまだ大家である大人たちには感覚的に受け入れがたい。

「よし、うちに住め!」
とは言ってはみたものの、芸術家を目指す若い男女4人がどれだけ頑張っても
月に32万の家賃を払うのは無理である。

「いくらだったら払えるの?」
「4人合わせて18万」
そりゃあんた安すぎじゃろ!
母にしてみても遊ばしてるよりはいいが32万が18万じゃイメージが悪いじゃろ・・・
「何とか20万出せんか・・・」
「出せない!」
こうもはっきり言うんだからそりゃ絶対に出せんじゃろう・・・
「よし、5LDKに4人やったら一部屋余るじゃろ。ワシが2万円出してそこ借りちゃろ!」

ところが家賃はこれで解決しても次には敷金礼金と言う大きな問題がある。
「敷金、礼金、出せるの?」
「うーむ・・・・そんなに出せないかも・・・」
礼金をゼロにしたら間に立っている不動産屋の儲けがなくなるので不可欠だが、
敷金は単なる預かり金だからナシでもええんちゃうの・・・

ところが大家と借主がそれでいいと言っても不動産屋が商売だからそれでは通らない。
結局敷金はワシが持つことにしてやっと話をまとめた。

ワシ・・・敷金40万払って家賃2万円のヤサを手に入れた男・・・

ワシらの時代からすると「コミューン」とも言うべきめいりん達の新居、
その名も「ファンキー荘」
ワシは月に数回しか帰らないだろうから、
井上陽水のデビューライブのアナログ版がかかってたりする(お前ら年いくつや!!)
素敵なリビングに面したワシの部屋は普段はゲストルームとして使われる。

みなさんも東京に宿が必要になった時には「ファンキー荘」のゲストルームに泊まって、
若き芸術家達のために1000円でも2000円でもカンパしてあげて下さいな。

ファンキー末吉


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