ファンキー末吉とその仲間達のひとり言

----第102号----

2004/09/30 (木) 14:02

忙しかったぁ・・・

毎週週末にはライブで日本に帰ってたと思ったら、
北京ではそれこそ寝るヒマがないぐらい仕事が来る。

と言ってもいつものように「ちょっとドラム1曲叩いてくんないかなあ」とかだとまだいいが、
アレンジだのプロデュースだの、ああ言う仕事はドラムと違って、
「ひょいと行ってちょちょいと叩いてはいおしまい!」
と言うわけにはいかないので非常に時間を食う。

まあギャラと言えばドラムの数倍はくれるが、
その代わりドラムは1日で数曲叩けるがアレンジとなるとそうはいかない。
どうアレンジするかを考えて1日、DEMOを作って1日、
本人に聞かせて意見を聞いて1日、それを繁栄させて1日、
スタジオに入って2日、最終段階のミックスダウンで1日。

軽く1週間はかかるやないの!!!!

また悪いことにヒマな時は何もなくずーっと飲んだくれてると言うのに
仕事が来る時にはどう言うわけか必ず同じ時期に重なるのである。
「新しいユニットをデビューさせるんだけど3曲ほどアレンジを・・・」
バブルで好景気な中国では新しいプロダクションやらレコード会社やらもどんどん設立され、
どこかのスタジオでは必ずどこかの新人のレコーディングをやっている有様である。
「週末日本に帰るから来週ね」
と答えても、中国では必ずデッドラインを提示される。
「今週末までに必ず仕上げてくれ」

そりゃいくらなんでも無理じゃろ・・・

何とか週明けまで延ばしてもらって、日本でのツアー中にアレンジしようと思ったら、
また他の人から曲を書いてくれだの、アレンジをしてくれだの、
挙句の果てにはとある打楽器ミュージカルの音楽監督までやらされて、
製品レベルの楽曲を2曲明日までに書いてくれとか言われる。

ワシはアレンジとか作曲とか本当は好きじゃないの!

ずっと前から、若手プロデューサーDに
CuBaseを使った新しいシステムを購入しろと言われて久しい。
そんなことしたらまた一日中パソコンの前に座り込んで、
「自分は何をする人ぞ」ってな生活になってしまうのでずーっと断り続けていたのだが、
「俺が揃えるシステムとまるで同じものを揃えてやるから。それだと楽だろ?」
と押し切られ、
ついにあらゆる音楽ソフトや山ほどの音源をいっぱい入れ込んだ最速のマシンが届いた。
ちなみにソフト類は全部海賊版である。

ええんかい!

だいたいさっきまで
「海賊版のおかげで俺たち音楽家の収入が少ない」
と熱く語ってたのに、そう言う奴に限って自分は絶対正規版を買わない。
まあこの国だと正規版を探す方が難しかったりするのだが・・・
正規版だと思って買ったらネットでダウンロードした海賊版をそのまま売ってたり、
聞くところによるとこちらでは時には正規版より海賊版のほうが優れてたりする。
CuBaseも本当はUSBでハードウェアKeyを差し込んでなければ起動しないそうだが、
こちらではもう最初っからソフトを改造してあって、
そんなものはいらないからUSBにアクセスしない分動作が速いとか・・・

しかし日本では今だに著作権印税が大きな収入だというワシが
こうやって海賊版満載の最速パソコンなんて使ってていいものだろうか・・・
(ほんまは犯罪です!すまん!)

まあ罪悪感より仕事が優先である。
製品レベルのものをスタジオに入らずに
期限までに納めるにはやはりこの新しいシステムに頼るしかない。
何せ世界最高のソフトと音源が山ほど入っている夢のマシンなのである。

使ったことのないソフトを説明書もなくさわりながら
ひとつひとつ学習しながら仕事をするのでよけいに時間がかかる。
また朝から朝まで何をやっとるのかわからん生活をしながら、
もうすぐ日本に帰らねば、そのためには仕事を終わらせねばと言う時に電話が鳴る。

「お前、歌手のMに曲書いただろ。
俺審査員で呼ばれて決勝大会に呼ばれて行ったら1位になってたよ」

去年、まだレコードも出てない女性歌手に頼まれて曲を書いてレコーディングした曲が、
何と中国最大の新人歌手コンテストで、
歌手部門と楽曲部門の両方でグランプリを取ったと言うことである。

案の定、この忙しいタイミングに絶妙にその歌手が訪ねて来る。
「ファンキー、ありがとう」
と例によって派手な賞状とトロフィーを渡されたまではいいが、
「すぐにこの曲の本ちゃんの歌入れをして、
至急MTV撮って、テレビ、ラジオ局にプロモーションをしなきゃ」

「本ちゃん・・・ですかぁ・・・」
そうなのである。
こちらではレコードを出す前にヒットチャートに入れるのが普通なのである。

「これがきっかけで、ある企業のイメージガールとしてその会社の曲を歌うことになったの」
嫌な予感がしたが、案の定
「だから来週頭までに曲書いて」
と来る。
しかもMTVを撮るのでそれまでに製品レベルの完成品を作らねばならない。

「また製品レベル・・・ですかぁ・・・」
これはもうこの新しいシステムに頼るしかない。
とりあえず日本でネタを考えれるだけ考えて、
それを持って戻って来たらこの世界最高のソフトウェアと世界最高の音色で・・・

夢のマシンがあるんだから何でも出来ると思ったら甘かった。
だいたい何万もある音色をどうやって選べと言うんじゃい!
全部聞くだけで何週間もかかるわい!
またタダやから言うて
あんなにたくさんのソフトやプラグインをこの短期間で使いこなせるわけないやないの!

少しでも使い勝手がよくなるようにとあーでもないこーでもないと設定をいじってたら、
どう言うわけか今度はソフト自体が立ち上がらなくなってしまった。

こうなったらもうパソコンとの格闘である。こんなの音楽でも何でもない。
同じ海賊版をダウンロードしようとネットにつないで検索しまくったり、
同じソフトを持っている友人を探しまくったり、
ますますどんどんと「音楽」と言う作業から遠く離れてゆく・・・

そんな中で久しぶりのモンゴル族中国人から電話が来る。
せや!こいつがおったぁ!
昔彼にシステムを見せびらかされた記憶がある。
よし!こいつからソフトをコピーさせてもらおう!

「ソフト?ちょうどいい。
今日はお前の家の近くの友人と飯を食う約束があるのでハードディスク持って行くよ」
ありがたい話である。
持つべきものは友達である。
かくして彼と彼の友人達と飯を食う。
外でこんなにゆっくり飯を食うのは久しぶりである。

「ファンキー、紹介するよ。彼はチベットの友人で・・・」
なるほどなるほど、紫外線に焼けて肌が黒かったり、代表的なチベット族の顔立ちである。
「あと彼は朝鮮族の友人で・・・」
なるほどなるほど、目の細さかげんとか、エラの張り具合とか、朝鮮族って顔である。
「そして俺がモンゴル族だろ。
俺たち音楽学校の同窓生で、今日10数年ぶりに会うんだ」
チベット族と朝鮮族とモンゴル族と日本人。
中国で飯食っててひとりも漢族がいない。

「じゃあ乾杯!!」

忘れてた・・・モンゴル族は食事の度に白酒なのじゃ・・・
しかも10数年ぶりに会う友人と・・・こりゃまともにすむわけはない・・・
またその朝鮮族が酒が強い強い!
チベットは空気が薄いのでチベット族はあまり酒は飲まないと言うが、それでも強い強い!
山ほどの料理と10数年ぶりの積もる話・・・そして浴びるほどの酒・・・

・・・こりゃソフトのインストールどころじゃないわ・・・

「ハードディスクを貸してくれたら自分でインストールするから」
と言ってはみたものの、
「海賊版はハッカーによってインストールのやり方が違うから無理」
と無碍に却下さる。
大宴会の後に千鳥足でやっとうちに帰って来て、
彼がひとつひとつソフトをインストールするのを見てて驚いた。
CDがないとインストール出来ないソフトはバーチャルCDを何種類も使い、
システムIDからシリアルナンバーをGetして、
それからオーサライズKeyをGetする方式では、
ご丁寧にそれぞれそれを返してくれるハッキングソフトがついてたりする。
あるソフトなどは、インストールしてパソコンを再起動したら、
そのまま何もせずにまたもう一度パソコンを再起動する。
なんで?

「ああ、このソフトは2回再起動しなきゃならんと言うことが判明した」

しかしよくこんなにたくさんのそれぞれのソフトをここまで熟知出来るもんじゃ・・・
「アレンジャーを本格的に始めて、半年間はこればっかりやってたからねえ・・・」
そう言う彼の気持ちはよくわかる。
ここ中国ではDEMOと言うのは製品レベルでないとクライアントが納得しないのだ。
ワシなんかペラペラのMIDIの音でDEMO持って行ったら
「どうやって歌えばいいのかフィーリングが全然つかめない」
と言われ、じゃあ自分で仮歌入れて持って行って聞かせれば
「あんたの歌じゃいいメロディーも悪く聞こえる」
と言われる。
そんなお国柄でこれだけ海賊版が普及してたら、
やはりどんなDEMOでも製品レベルになろうと言うものである。

白酒にあまり強くないワシがもう既に力尽きてぐったりしてる間、
白酒なんか茶と変わらない彼はひたすら海賊版ソフトをひとつづつインストールしてゆく。
「あのさあ・・・音楽作ってる時間とパソコンと格闘してる時間って・・・どちらが長い?」
試しにそう彼に聞いてみた。

「そりゃ間違いなくパソコンだろ」

北京の一流のアレンジャーはほとんどパソコンの細かい設定や修理まで出来ると言う。

ワシ・・・もうアレンジャーなんかやらん・・・
ドラム叩いてなんぼの生活に戻りたい・・・

ファンキー末吉


戻る