世界はRockを求めてる!

北朝鮮Girlsロックバンド計画

このプロジェクトはこちらに正式なHPがUPされました。


先日うちの院子に北朝鮮の幹部がやって来た。

一国の幹部がわざわざこんな貧民街に足を運んで来ると言うのも不思議な話であるが、

そんな不思議な話が普通に身の回りで起こるのがこのファンキー末吉の人生でもある。

思えば去年の夏、ひょんなことから北朝鮮に行き、彼女達にロックを教えると言う暴挙に出たのも何かの運命である。

北朝鮮渡航記

人の運命とはひょんなことで180度変わってしまうことを俺は知っている。

1990年に初めて北京にやって来るまで俺は中国なんて何の興味もなかった。

当時の爆風スランプの置かれている状況、そして商業ロックと自ら持て余すロック魂の狭間で激しく揺れ動く俺の背中をちょんと押したのは何でもない、

ただ地下クラブで演奏していた無名の中国のアンダーグランドロックバンドのサウンド、ただそれだけだった。

たったそれだけで人間の運命なんか180度変わってしまうのである。

中国に傾倒してゆく俺を人は変人扱いしてゆくが、そんなことは別に苦にならない。

高校の頃、ロックに傾倒してゆく俺を人はさんざん変人扱いして来たではないか。

 

変人を英語でUnique(ユニーク)と言うらしい。

日本では人と同じでないことは悪いことだが、ところ変わればそれはいいことになることもある。

 

ところ変わればと言えば、

俺はいろんな外国を旅して来たが、一番Unique(ユニーク)な国がこの国、北朝鮮だった。

中国の文化大革命の時代と似ていると俺は思う。

もちろん中国の文革は俺はリアルタイムに経験したわけではないが、

ここ北京で暮らしていて、中国人的なものの考え方、あきらめ方、頑張り方、

等いろんな感覚が既に肌にしみこんでいるのでリアルにそう感じることが出来たのかも知れない。

 

でも文革だって10年で終わりを迎えた。

当時毛沢東の文字が入った新聞紙を破いただけで殺されてた人民は、

いつの間にかその毛沢東の写真をブロマイドにしておもちゃとして売り買いしている。

あまりにロックな出来事だったので喜んでそのブロマイドを買って来てパソコンに張ってたら、

当時の日本のプロダクションの会長から

「お前は中国行って共産化して来たのか!!」

と怒られてしまい、何を言ってるのか皆目わけがわからなかった。

 

俺・・・社会科一番苦手やったし・・・政治のこと一番ようわからんし・・・

 

中国のロックを「反体制」と位置づけなければ報道が出来ない日本のマスコミもわけがわからない。

彼らに、中国のロッカー達が毛沢東を「偉大なロッカー」だと言いながら酒を飲んでる事実をどのように伝えれば感覚的に理解してもらえるのだろう・・・

 

余談が過ぎた。

俺にとって毛沢東も金日成も金正日も小泉元首相もどうでもいいことである。

会ったこともないし、「友達」ではないからである。

 

しかし今や平壌には「友達」ならぬ俺の「生徒たち」がいる。

陳腐な表現だが、彼女達の笑顔こそ俺は世界最大級の「ロック」なのではないかとつくづく思う。

本当のことを言うと俺は、北朝鮮の人は笑わないと思っていた。

もし笑ってもそれは演技であり、決して心を開かない、開いてはいけない人達、そう思っていた。

考えてみれば不思議な話であるが、

当たり前のようにそのように報道されて来たし、

気づかないうちにそのようなイメージを植えつけられて来たのである。

 

ところが実際に行ってみるとそれは違った。

 

この衝撃は、1990年に初めて北京の地下クラブでロックバンドのライブを見た時に通じる。

中国にロックがあるなどと誰も思わなかったその時代に、

これこそが世界で初めて俺だけが見た「真実」だ!!そう思った。

 

その後、俺は彼ら中国のロッカー達を援助し続け、中国にはロックの時代がやって来て、

そして今では時代が通り過ぎ、それでも俺はそんな中国ロックのそばに居続ける。

死ぬ時は願わくばこの「ロックCity北京」で死にたいと思っている。

きっとそう言う運命だったのである。

それはきっと時代が、何か大きな力が、

俺に中国ロックの黎明期の手助けをさせたくて俺に彼らを出会わせたのだと今は思っている。

 

それから俺はずーっと考えて来た。

では何故その大きな力は俺をあの時平壌で彼女達に出会わせたのだろう・・・

 

こう言うことを考えるときに決して「それが俺の人生に何を与えるのだろう」などと考えてはいけないことを俺は知っている。

彼女達のために俺が何が出来るのだろう

こう考えるのが正しいのである。

 

北朝鮮の幹部にこんなことを言ってみた。

彼女達を世界デビューさせましょうよ

今やU-TUBE等、一瞬で世界中に彼女達の音や映像を発信する方法はいくらでもある。

この「世界で一番ロック」な出来事を今伝えなくてどうする!!

 

と言っても彼女達は6月9日高等中学校と言う名の学校の軽音楽クラブで

外国人の観光客が来た時に民俗音楽や革命の歌などを披露しているわけで別にロックを演奏しているわけではない。

「彼女達のレパートリーでデビューさせるんじゃないんですよ。ロックです。ロックをやるんです」

もともと暑苦しいこの顔で、さらに最大級に暑苦しく語る。

「考えてください。あの偉大なる首領様は、どうしてこともあろうか6月9日、

よりによって6月9日にですよ、ここに学校を建てろとご指示なさった、どうしてだとお思いですか?

6月9日が何の日か知ってます? 6、9、つまりロックの日なんですよ。

彼女達がロックをやることは、実は偉大なる首領様のおぼしめしなのです!

 

別にこの国の主体思想やら共産革命とやらにも一切の興味はないが、

中国のロックバンドがいつも酒を飲むとロックと革命とをなんかごっちゃ混ぜで語ったりするのでついこんな言い方になってしまう。

 

「はあ・・・わかるようなわからないような・・・」

まあだいたい6(ロク)とか9(ク)とかの読み方は日本語ならではのもので、

6月9日をロックと関連付けるのは日本以外にはありえないのだが、

ここでこの幹部にドン引きされたら彼女達とのパイプがなくなってしまうので更にごり押しする。

 

「私も中国では地元のロッカー達と共に革命論を勉強しました。(大ウソ!)

革命とはそれぞれがそれぞれの能力を持ち寄って、力を合わせて初めて成功するものだと思います。

平壌の主体思想搭広場では知識人のペン、農民の鎌、そして工人のハンマーが合わさっているモニュメントを見ました。

私は更にそれにドラムのスティックとギターとベースを加えて更に革命を前進させるべきだと思うのです。

首領様の主体思想にロックの魂を加えたら、

その革命の速度はあの伝説の千里馬(チョンリマ)よりも速く成し遂げられると私は信じてます」

 

平壌観光で延々とガイドのわけのわからん説明を聞かされて来たのは、

実はこの時のために役に立つと言う大きな力のおぼしめしであったのだと自分の言葉に酔いしれる・・・

 

「そうですかぁ・・・でもそのロックと言うのがまだあんましよくわからないのですが、

それは一体どう言った音楽なのでしょうか? 聞かせてもらえませんか」

 

聞かせると言ったって今の時代のどこに本物のロックがある?・・・

日本のロックは商業化しつくして久しいし、中国ロックも今やそのパワーを失って久しい。

 

そうだ!XYZがある!

 

商業ロックに背を向けて、世界最高のロックバンドを作ろうと、

ラウドネスの二井原実、筋肉少女帯の橘高文彦、そして爆風のバーベQ和佐田と共に結成した、

世界に誇るスーパーロックバンドである。

先日、製作期間3年をかけてやっと発売したばかりのニューアルバム「Wings」を大音量で聞かせる。

 

幹部の顔がみるみる引いてゆく・・・

 

「しまった!彼らにはまだ早すぎた!!」

まるでバック・トゥー・ザ・ヒューチャーで主人公が叫んだような台詞を心の中で叫んでしまったが後の祭りである。

「いやいや、これは単なる教則本みたいなもんでして、まあロックの基礎です。

これぐらいのテクニックがあってこそ初めて偉大なる革命を成就させることが出来ると言うお手本です。

レーニンの革命と毛沢東の革命と偉大なる首領様の革命がそれぞれ違うのと同じように、

ロックも北朝鮮独自のロックを生み出し、その道を歩んでゆくことが大事ではないかと私は考えます」

 

冷や汗たらたらである。

説得すること5万時間(ウソ!)

苦労の甲斐あって、幹部からは全面的に協力するとの約束を取り付けた。

レコーディングの際には、彼女達は1週間授業を出ずにレコーディングに専念させること、

その間学校の設備は自由に使ってよいこと、

電力の供給が不安定なので、その間は政府にかけあって電力を優先的に回してもらえるよう交渉すること・・・

 

ってそれ・・・彼女達を北京に呼んでレコーディングするんじゃなくて、俺が北朝鮮行って、しかもあの学校の中でレコーディングするってこと?・・・

 

ファンキーさんのところでレコーディング出来るんだったらうちの学校でだって立派にレコーディング出来るでしょう

貧民街に住んでるのがアダとなった・・・

 

そうなると問題は山積みである。

まず外務省が「目的の如何を問わず渡航を自粛してください」と言っているんだから、きっと渡航してはいかんのじゃろう・・・

しかし先月6カ国協議の頃、在日の修学旅行生が平壌に行ってた話を幹部から聞いたがなぁ・・・

そもそもそれって犯罪ってことか? それとも道義的な問題か?

もし戦時中にアメリカからJazzを教えに日本に来てたミュージシャンがいたとしたら

それはアメリカにしてみたら犯罪者か? 売国奴か?・・・

そんな奴がいたかどうかは知らんが、とにかく俺のやりたいことはまさしくそんなことである。

 

まあこの辺のこと、政治がからむと俺の頭では全てが理解の限界を超えるので、ここはまあ時代の流れを待つとしよう。

時代と言うのはいつまでも同じではないことを俺は知っている。

中国にだってこんなに自由にロックが出来る時代が来るなんて当時は誰も想像だに出来なかったから・・・

 

ま、もし行けたとしても次は楽器の問題である。

前回俺は「ロックは楽器でやるもんじゃない!」と弦が3本のギターとベースでアレンジをしたが、

実際レコーディングとなるとそうもいかんのではないか・・・

そもそも経済制裁の禁制品に楽器が入っとると言うのはどう言うこっちゃ!!

喜納昌吉さんは「全ての武器を楽器に」と言う名言を唱えたが、

俺としては「せめてロックの楽器ぐらいは禁制品から解いた方がええんとちゃうのん」と小声で言うしかない。

政治とはいつの世もご無体なものである。

 

そして次はレコーディング設備の問題である。

あの国にちゃんとしたレコーディング設備があるのか?

そしてその幹部はそれを当日ちゃんと調達出来るのか?

 

レコーディングに関してはプロに聞けと言うことで、ちょうどアメリカからWyn Davisが来てたので相談してみた。

現在のレコーディング技術で言うと、ドラムの音、バスドラ、スネア、タムタムの音に関しては全部トリガーで音色を差し替えることは可能である。

実際俺たちが聞いてるアメリカのビッグネーム達の音色もそうやって作られてたりするし、

中国の仕事で彼にMixを依頼した時も、ドラムの音が見違えるぐらい変わってたのでびっくりしたのを覚えている。

ただ、オーバーヘッドのマイクだけは差し替えようがないので、それだけはちゃんといい音で録っておかなければならないと言うことと、

トリッガーにかけるスネアやタムなどのマイクに他の音が混じりこまないようなマイキングをせねばならないとか、

さすがプロなりのアドバイスをいろいろ頂いた。

 

ギターとベースはアンプの音と共にギターから直の生音も一緒にレコーディングしておけば、

いざとなったらWynのスタジオでそこのアンプを鳴らして音色を差し替えることが出来る。

シンセはMIDIで録っておけば後でいくらでも音色は差し替え出来る。

歌は彼女達は全員歌えるので恐らく問題はない。

 

「じゃあ、レコーディング出来たらWyn、君が是非それをMixしてくれ!!」

録り終えたその音源を彼の手でMixしてもらえるなら、

これは世界のロック界を震撼させる最高峰のサウンドに仕上がることは間違いない。

 

「北朝鮮プロジェクトかぁ・・・CIAがなぁ・・・」

 

ほんまか?

あそこはアメリカの敵国やからか?

北朝鮮っつう国もいろいろひどいことをやって来たと言うが、

アメリカはもっとヒドイことをその歴史の影でやって来たと言う噂は本当か!!!

 

「マークはするかも知れんが別に俺に何かするはずはねぇだろ」

Wyn流のジョークであった。

 

しかしこれが実現すれば非常に面白いことになる。

北朝鮮にとって、日本もアメリカもどちらも敵国なのである。

ま、国同士が敵でも人間同士は別に関係ないのじゃが・・・

 

さてここでWynから素朴な質問。

「どうせだったらドラムはお前が叩けば?

本人が叩いて後でどうのこうの直すより、後でお前が叩き直した方が絶対クオリティー高いよ。

アメリカのバンドも時々本人じゃなく平気で差し替えたりしてるし、日本のバンドもそうだろ?」

 

日本の音楽雑誌のとあるスタジオミュージシャンのインタビューで、

「最近やった仕事は?」と言う質問に、平気でバンドの名前が挙がっていてショックを受けたことがある。

売れてるいろんなバンドが実は自分たちでレコーディングしてないことは、言わば誰でも知っている公然の秘密みたいになったのを

ここに公然と暴露してしまったようなものであったのだ。

 

難しい問題である。

日本もアメリカも、まあ今となっては中国も、一番大事なことは「売れること」。

つまり売れれば何でもいいのである。

クオリティーだけを考えると

わざわざ、楽器もろくにない、録音機材もない、電力の供給もおぼつかない国でレコーディングしなくても、

ちゃんとした設備とちゃんとしたレベルのミュージシャンで録音した方がいいに決まっている。

そのオケ持って現地で歌だけ録ればよいのである。

日本のバンドなんてみんなそうしている・・・(すまん!言い過ぎた!みんなではない)

 

しかしこのプロジェクトは俺にとって何なのか?

金のためにやるのか? 否!

名誉のためにやるのか? 否!

じゃあ何のためにやるのか? ロックのためにやるのである。

じゃあロックとは何か?

難しい問題である。

せめて「ウソはつかないこと」、これはせめて基本となる地盤であろう。

 

そして「媚びないこと」。

 

そうだ、俺があの平壌の生徒たちに教えたいことはロックのテクニックだけではないのだ。

戦争が始まったら音楽どころではない。

国が崩壊してしまったら音楽どころではない。

あの国にとってそんなマンガみたいなことが明日起こったって不思議じゃないのである。

でもどんなことがあったって人間は生きてゆく。

彼女達はきっとこれからも音楽と一緒に生きてゆくと思う。

その時に思い出して欲しいのである。

俺と一緒に過ごしたあの時間を・・・

そしてこれから一緒に過ごすであろうあのおもしろおかしい時間を・・・

敵国から来たわけのわからんことを言う変なオッサンが教えてくれた音楽が、

後に「ロック」だと知ってくれればそれでいい。

願わくば彼女達にはこのままずーっと媚びずに胸を張って自分の音楽をやって欲しいのである。

 

俺はそのお手伝いがしたいのである。

 

よし、曲を書こう!

ここで今更ひよった音楽を作るわけにはいかない。

ごりごりのロックナンバーを作らせて頂こう。

いつかまた何か大きな力が俺を再び平壌に連れて行って、

その曲を彼女達と一緒にレコーディングさせる日が来るに違いない。

俺はその時のために準備だけをしておけばいいのだ。

 

今できること・・・よし、メンバーを決める!

あの音楽クラブのメンバーの中から俺が一方的にチョイスして彼女達に通達した。

ベース&ボーカル 鄭慶姫(チョン・キョンヒ) 通称「あねご」

メンバーの中で最年長の6年生。

(北朝鮮は小学校と言える人民学校に4年通い、その後中学校と言える高等中学校に6年通う。つまり日本で言うと高校1年生)

メンバーの中ではお姉さん的存在で、性格的にもまさに「あねご

今年で卒業なのだが、やはり音楽の道に進みたいと言う夢を持っている。

実はこの企画には一番乗り気であると聞く。

 

ドラム&ボーカル 李恵蓮(リ・ヘリョン) ニックネーム募集中

同じく最年長の6年生。

ドラムは北朝鮮では花形楽器である。

あねごほどではないが、バンド内の指揮者よろしく後輩たちの世話を焼く。

可憐なその身体から叩き出されるパワフルなドラム・・・

になるようによろしく指導してゆきたい。

 

ギター&ボーカル 柳真玉(リュウ・ジンオク) ニックネーム「末っ子」

うって変わって一番年下。

メンバーからは末っ子として可愛がられている。

いつもニコニコ笑っていて明るいいい娘である。

この娘が髪の毛を振り乱して見事にヘッドバッキングが出来るまでになるようよろしく指導してゆきたい。

 

ギター&ボーカル 李順(リ・スン) ニックネーム「おでこちゃん」

新メンバー。

年上ではないのだが何故かバンドを仕切っているその姿を見て、将来はこのクラブを仕切ってやってゆく存在になるであろうと思い、今からメンバーに抜擢すべきだと判断。

楽器はひと通り何でも出来るようなので、とりあえず要のディストーションギターを担当してもらう。

彼女が「ロック」であるかどうかにこのバンドの運命がかかっている。

 

 

キーボード&ボーカル 金秀慶(キム・スキョン) ニックネーム「ボンボンちゃん」

アコーディオンの名手でもある。

性格的には完璧主義と見受けられ、自分が弾けないフレーズがあると非常にそれを許せない心が働くようである。

今回は彼女にもソロを弾いてもらおうと画策中。

なーに、君なら弾けるよ!

更にもうひとりキーボードを加えようと思うのだが、残念ながら前回参加してくれた子は今はクラブをやめてしまったらしい。

新メンバーは決定次第連絡が来るのでまた報告いたい。

 

そしてバンド名はこれしかない!!

6月9日高等中学校バンド

そのままやん? ダサイ? しかし俺はもうこれしか思い浮かばんのである。

6月9日、ロックの日に全てが始まったような、そんな気がしてならんのである。

 

ご意見を求む!


funky@funkycorp.jp

HPに戻る